第一幕、御三家の桜姫

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『カップルコンテストあるってなんで教えてくれなかったんだよ! あきちゃんのウエディングドレス綺麗だろうなぁ。今日も見に行くから一緒に写真とか撮ろうな!』

「……本当に全然性格似てないなぁ」


 しかもウエディングドレスだなんて決まってない。松隆くんが衣装まで用意するとかなんとか言ってたけどどうするんだろう。桐椰くんとタキシード……全く想像がつかない。因みにBCC参加者のお披露目は午後二時半から順次とされていて、投票がその場でされる。どんなシステムかは知らないけれど、大画面に票数が一斉集計されるというのだからさすがお金持ち学校は違う。

 十時半頃、日曜日だというのもあって校内に一般客が増えた。廊下も喧騒にも近いにぎやかさに包まれて、客引きの子も戻って来るときに連れているのは友達だ。開始早々喫茶店に寄る人なんてそんなにいないと思っていたけれど、友達がいるとなれば存外やってくるものだ。ただ、さすがに長居まではしなくて、お菓子をつまんでお茶を飲み終わると帰っていく。お陰で雑用の私も意外と忙しい。食器を洗うスペースを確保できていないせいで、一定数溜まるごとに一階にある臨時調理場まで運ぶ羽目になり、既に教室とは二往復。この調子だと明日は腕と足が筋肉痛になりそう。お茶を点てる子も予定以上に早いペースで交代していく。


「疲れたー」

「やっぱ目の前で点てるのはキツイよねー……なんだか暫くお茶見たくないんだけど」

「集中力も切れるし、先生に怒られそう」


 お茶を習っている子達の会話が繰り広げられる隣で、私はせっせと毛氈を整える。お茶なんて習ったことのない私は今なら生徒会役員に虐げられても文句はいえない。


「あ、おねーちゃん!」


 そのとき、聞き慣れた声に顔をあげると、ぶんぶん手を振る優実がいた。いつもの遊びに行くような恰好で、隣には二人の同い年っぽい子達がいて、どうやら宣言通り二人の友達と来たことを知る。黒髪ロングストレートは今日も元気なツインテールだった。


「優実、いらっしゃいませ」

「お姉ちゃんのシフト何時までか分からないから一番に来ちゃった」

「ありがと。でも優実、苦いお茶飲めるの?」

「お菓子と一緒なら平気だって!」


 ニッ、と優実は私の顔を覗き込みながら笑ってみせた。その身長は私より十センチは低い。友達だという二人は私と目が合うと軽く会釈してくれた。窓際の席に案内すると、座りながら「目とかそっくりだね」と話しているのが聞こえた。
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