御三家の桜姫

 そこには、ストレートロングの黒髪を靡かせた美女が立っていた。その後ろには、下僕とも言うべき男子生徒四人もいた。はは、と、私は渇いた笑い声を漏らす。


「アタシ達の生徒会室でそーゆーやらしいことしないでくれない?」

「す、すみません、そーゆーわけじゃ……」

「やらしいことするなら相手選ぶし……」

「ちょっと何で私のこと貶すの!? どっちの味方なの!」

「きゃんきゃん騒がないでよ、馬鹿のくせに」


 はーあ、と溜息をつく美女。それを見た彼が舌打ちした。


「清楚系優等生気取ってるだけのビッチに馬鹿呼ばわりされたくねー」

「は? ちょっと何、何か言った?」

「別に? おいいい加減退けよ、帰るぞ」

「あ、ごめん」


 彼と美女の仲の悪さは知っていたけれど、相変わらず一の罵詈に二倍の雑言で返す、この有様。うーん、悪いのはどちらかと聞かれたら両方だ、なんて呑気に考えながら立ち上がると、彼も素早く起き上がった。ビッチ呼ばわりされた美女の頬はひくひくとひきつっている。


「ねぇ……生徒会室に勝手に潜り込んでた挙句、アタシをビッチ呼ばわりとか、何様のつもり? とりあえず謝罪くらいして帰れば?」

「いや事実だし? 俺達、今日生徒会室の掃除任されて掃除しに来てただけだし?」


 そんなの口から出任せ、それでもって、生徒会室の管理を任せている生徒会役員──この美女からすれば、大嘘なのも明白だ。つまり誤魔化す気すらない。


「へぇ、そう。じゃあ何で用具入れなんかに入ってたの? 趣味?」

「あー、そうそう、趣味。ちょっと狭いところで楽しんでみようかと思って」

「じゃあ次はアタシと楽しんでみる?」

「ビッチなんかとやる趣味ねーよ」

「だからアタシはビッチじゃなくて──」

「真実の愛を育める男を探してるんだっけ? 俺はお前と真実の愛なんて気色悪いもん育めないから遠慮しとく。んじゃ失礼しましたっ」


 息もつかずに捨て台詞を吐き、彼は私の腕を掴むと、廊下側の窓まで走って、そのまま窓を開け放って飛び出した。彼ほど身軽に窓から飛び出すことなんてできず、私は窓枠に上って廊下に飛び出た。私達が走り去る廊下に向かって、窓から顔を出した美女が叫ぶ。


桜坂(おうさか)さん!」


 なんで私の名前だけ──と、思いながら振り返ると、その美女の口角が吊り上り、その目元が意地悪く歪んでいた。


「御三家のお姫様ごっこは、楽しい?」


 ぐっと、私は唇を引き結ぶ。今までだったら、何も言い返さなかったけど。


「っ楽しいです! クソビッチお嬢様に牛耳られてる生徒会よりずっと楽しいです! 分からせてくれてどーもでした!」


 負けじと声を張り上げて叫んだ。隣の彼がくすっと笑う。


「お姫様じゃなくて下僕だろ」

「うるさい!」


 私は、御三家の下僕です。


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