御三家の桜姫


 それはさておき、手早くウエストを細くし、スカートの丈を短くしてから「はーい、どうぞー」と合図すると、振り向いた桐椰くんはやっぱり目を丸くする。松隆くんは一層満足そうだ。


「ほーらね、私、スタイルもいいでしょ!」

「すっげー図々しくてムカつくんだけど、コイツ」


 苦虫を噛み潰しながらも、否定はしない。うむ、と私も満足気に頷く。

 普通に私を見ても、可愛くもなんともないんだと思う。眼鏡は凹レンズだから、眼鏡を外すと目が大きく見える。つまり、二重で大きい目でも、眼鏡をかけると小さく見えてしまう。私の髪は少し癖毛が混ざってるから、結ばずにいるとボリュームが出てぼさぼさだ。胸は平均より大きいから、服によっては寸胴に見えてしまう。でもウエストは細いから、そこを強調すれば凹凸のバランスが整って、スタイルがよく見える。

 めちゃくちゃ美少女ってわけじゃない。めちゃくちゃスタイル抜群ってわけじゃない。なんなら身長は発展途上。でも、普段の格好が眼鏡にボサボサ頭に長いスカートに古いシャツ、なんて有様だから、きちんと似合うように整えるだけで、まさに豹変する。


「やっぱり、桜坂はちゃんと自分の使い方を分かってるんだよね」


 自分の魅力を最大限に引き出す方法を知っていれば、普通ならその方法を選択するだろう。そこであえて逆の選択をしている私に、松隆くんは意味ありげに口角を釣り上げた。


「理由は聞かないけど、そういう頭の回る子は嫌いじゃないよ」

「お誉めにあずかり光栄です」

「……俺はそういう頭の回る女は好きじゃねーぞ」

「私もヤンキーは好きじゃないから安心していいよ?」

「ぶん殴っていいか、アイツ」


 松隆くんが桐椰くんの腕を掴んでおさえるので、あっかんべーとしてみせた。桐椰くんのこめかみには青筋が浮かぶ。


「というわけで、私そこそこ可愛いから、守り甲斐あるよね!」

「だから図々しいなお前のそのキャラ!」

「まあまあ、遼。でも確かに結構可愛いから、お手柄」

「そんなこと言うとコイツ調子に乗るだろ! 可愛いって思ったから連れてきたみたいな言い方やめろ!」

「ねぇ、普段は今まで通りの格好でいい?」

「桜坂が今まで通りがいいって言うならいいよ。実物が可愛いって分かってれば別にいいし」

「まあ実物は可愛いよね、うんうん」

「マジでうぜーなコイツ。つか、お前ら勝手に話進めてるけど、駿哉がなんて言うかはまだ分からねぇからな?」


 さっきから出ている、御三家の三人目だ。松隆くんは「だから駿哉なら問題ないでしょ、興味なさそうだし」なんて失礼なことを説明している。


「ねぇ、その人誰?」

「真面目で堅物で女嫌い」


 ……問題しかないのでは? というか、ヤンキーと腹黒の次は真面目で堅物で女嫌いとくるとは、もしかして御三家って問題児集団なんじゃ……。
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