御三家の桜姫


「えーっと」でもそんなことは口には出せないし「ここって、御三家のアジト的なとこでしょ?」「まあ、学校における」「その駿哉くんは来ないの?」桐椰くんの評価が友達への辛口のコメントであることを期待したけど「さあ。試験中だしな、図書室にでも行ってんじゃね」どうやら今日は本人に会えそうにないらしい。


「じゃあ私帰っていい?」

「いいよ。正式に御三家の仲間になったら、帰りも送ってあげる」


 ばいばい、とあまりにもあっさり手を振られ──ああ、やっぱり、この人は怖い人だと思い知る。御三家が私を守る条件は、御三家の仲間になること。つまり、こうして突き放すことで、御三家の仲間でもなんでもない私を守るつもりはないと明言してみせた。優しい顔に騙されてはいけない、この人は、感情的な人間とは真逆に位置するひとだ。

 だからこそ、その正しさには頷くことしかできない。


「分かった。……最後に、聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「……どんな理由があって、生徒会を潰そうとしてるの?」


 最初に聞いたときは、ただの成金同士のいがみ合いだと思った。でも松隆くんほどの人が、そんなくらだないごっこ遊びに本気で挑むのだろうか。

 そんな、純粋な疑問だった。それなのに、松隆くんと桐椰くんが、一瞬無表情になった。

 ゾク、と、背筋が震える。でも何事もなかったかのように松隆くんは笑顔を作って見せた。


「御三家の仲間になったら、教えてあげる」


 ……あぁ、本当に、この人は怖いな。はっきりと線を引かれて、色々通り越して笑ってしまった。

 仲間になったら生徒会を潰すことに協力することになるのに、潰す理由は仲間になるまで教えない。そんなの契約を結ぶなら論外だ。なんて身勝手で、理不尽な交渉。


「分かった」


 それでも私も笑顔を作って見せる。

 私は何より、平和に高校生活を終えたかったから。
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