第一幕、御三家の桜姫
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「すげぇもんだな。どんな物好きが投票してんだ?」
「投票してくれてるんだからそんなこと言うのはやめようよ。二日目に松隆くんが一般生徒の味方してあげたのが利いたんじゃない? 生徒会役員数が一般生徒より多いわけないもん」
「お前の提案は無駄じゃなかったってことだな」
「計算高い女でして」
「寝言は寝て言えよ」
「月影くんがいないからって月影くんっぽいこと言わないでいいんだよ」
観客もモニターを見ながら投票する人がいるのか、御三家が勝ち始めたなぁと楽しそうな声が聞こえる。匿名性が保たれるというのなら生徒会なんて怖くない……。分かりやすいお話にちょっとだけ体はむずがゆい。
そして、司会を務める多々羅さんがそれを見逃すわけもなく「おっと、御三家ペアが勝ち始めましたね!」とコメントする。
「投票の際に書き込まれたコメントを見てみましょう。『黒髪の桐椰くんがイケメン過ぎる』『料理上手は反則』『照れた顔が可愛い』だそうです。分かります分かります、桐椰くんのギャップはすさまじいですよね~!」
やっぱり桐椰くんにしか票入ってないじゃん……。一日目に真っ二つに切られてしまった私と桐椰くんの写真を思い出した。
「おおっと、桜坂さんへのコメントもありますね。『化けすぎ』『ドレスがエロい』『伸びしろある』とのこと……御三家のお二人は総じてギャップを狙ってきてますね」
分かりやすい男子票……。頬がひきつりながらも、よしりんさんを呼んだり普段の恰好を無惨なままにするように忠告した松隆くんの作戦勝ちだ。それにしたって、なんでカップルコンテストなのに誰一人私達の組み合わせに触れないんだろう。
「生徒会のお二人へは『さすが蝶乃さん、自社ドレス似合いすぎ』『踏まれたい』『鹿島くんと蝶乃さんのビジュアルが完璧』とのコメントが届いております。そう、蝶乃さんが纏うドレスはお母様のデザインしたB.B.ブランドなのだとか! やはりこのドレスで優勝したいという意気込みが?」
多々羅さんが再び蝶乃さんにマイクを向ける。そっか、どうりで蝶乃さんだけに似合うように作られたドレスだと思ってたけど、オーダーメイドなのか……。よしりんさんが苦虫を噛み潰す様子が脳裏に浮かんでしまった。一方蝶乃さんは得意げに、ドレスを見せつけるように半分後ろを向いてばっくり開いた背中を見せる。
「そうなんです。母がこの日のためにと特別に作ってくれて」
「蝶乃さんのお名前にもぴったりな蝶をイメージしたブランドですよね?」
「えぇ。女の子は好きな人の隣に立つときこそ一番綺麗になる……それこそ、さなぎが蝶になるように、と」
「素敵ですね~! 鹿島くんへの告白まで!」
チッと桐椰くんが舌打ちした。モニターで生徒会の点数が二一〇七〇点に到達、私達の二〇九〇〇点を追い越したからだ。
「今のコメントの何がいいってんだ? マジで理解に苦しむな……」
「B.B.は女子高生御用達の大人気ブランドだよ? そのせいじゃない?」
「吉野が目の敵にしてるあの気色悪い蝶のブランドだろ? 何であんなもんが人気なのか男に分かるわけねーだろ」
まぁ、うん、そうかもしれない。因みに私はあまり好きではない。蝶乃さんのお家ブランドとなれば猶更だ。ただ多々羅さんは好きなブランドなのだろう、熱心に頷いている。
「ではそのドレスには誰にも負けるわけにはいかないという意気込みも含まれているんですね」
「そうですね。たかだか数カ月の付き合いの彼氏彼女は言わずもがな」
ふ、と蝶乃さんの得意げな横顔に嫌な予感がした。なんだか空気が悪い……。
「桐椰くんと付き合ってもないのに出場してる御三家の桜坂さんなんかに負けません」
「え――」
多々羅さんが言葉を失い、観客も「え?」「マジで?」と一瞬で動揺した。