第一幕、御三家の桜姫
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しまっ、た。私が息を呑むと同時に、桐椰くんも同じような反応をして、胸倉でも掴みそうな勢いで蝶乃さんを振り返る。
「おい蝶乃テメェ!」
「あら、何か文句でも?」
「お前話が違うだろ! あの時――」
「部活で受け付けてる出場を特別に受け付けるとは言ったわ。でも桜坂さんと付き合ってないことを秘密にするなんて言ったかしら」
鹿島くんは我関せずとばかりに無言を貫いている。桐椰くんは記憶を探り、蝶乃さんがそんな確約をしていないことを思い出したらしく、「くそっ」と悪態を吐きながら額を押さえた。
「相変わらず性格のクソ悪い女だな……」
「あら、それでも出場は許してあげてるんだから有り難く思ってほしいわ」
多々羅さんが思わぬ真実に狼狽えている。「えーっと、これは異例の出来事ですね……」と言葉を紡ぐも、形だけだ。
「えぇと、取り敢えず、カップルでなくとも出場が許されているというのは……よろしいんでしょうか、企画委員長、企画役員さん……」
「その点については了承していますから問題ありません。もちろん、カップルでない組に投票するかどうかは皆さん次第ですけど。ね?」
舞台の隅に座って静観していた笛吹さんがにっこりと企画委員長にも笑いかける。悪魔だ。
「……というわけで、コンテストは続行しますが……、御三家のお二人に訊いてみましょう。BCCへの参加は生徒会との覇権争いだとの噂がありましたが……」
「……あぁそうだよ。生徒会との覇権争いのために出場してんだよ、俺達は」
もう観念したように桐椰くんは深い溜息と共に答えた。カップルでもない組に投票されるわけがないとぼやいて一生懸命彼氏彼女のふりをしてたんだから、その精神的疲労が一気に押し寄せても無理はない。実際、私もあんなに頑張ったのに、と思うと一気に疲れが押し寄せた。ぐらっと、一瞬足元がふらつく。危ない危ない。
「なるほど、その覇権争いは何のために?」
「……最初に言ったろ、この高校の生徒会はいくらなんでも腐ってるってな。それは嘘じゃねぇよ」
「ではどうして桜坂さんを?」
「生徒会にびくついて媚売ってる生徒より根性ありそうだったからな。それだけだよ」
「では好きなところなどなどのアピールは?」
「それは――……」
桐椰くんは言葉に詰まる。そこで嘘を吐けるような神経の図太さは松隆くんには多分あるけど、桐椰くんにはない。あーあ、失敗だな。散々頑張ったけど、BCCで優勝するのは無理そうだ。
「……別に恋人の好きじゃねぇけど、コイツのそういうところが好きなのは本当だよ」
は――……。私が唖然とすると同時に、多々羅さんも言葉を失って一瞬静止した。が、ややあって「なんとなんと!」と興奮気味に叫ぶ。
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