第一幕、御三家の桜姫
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「それに、どうやら蝶乃の馬鹿はドジ踏んだらしい」
「……どういう」
「アクシデントもありましたが、いよいよBCC投票時間も残り三十秒! みなさんもうよろしいですか?」
多々羅さんの声が高らかに響き渡る。桐椰くんに隠れて私にはモニターが見えないけれど、逆を言えば、意地悪く口端を吊り上げた桐椰くんの表情はよく見えた。
「生徒がベストカップルなんてコンセプトに従う義理はねーんだもんな。俺単体、お前単体、それどころか御三家への投票も、結局俺達への投票ってわけだよ」
「しゅーりょー! 投票時間が終了しました! 投票結果はみなさんが目にする通りです。これは皆さん、中々予想しなかった結果なのではないでしょうか?」
蝶乃さんのドジ、私や桐椰くん単体への投票……。言葉の意味を一生懸命考える。蝶乃さんは私と桐椰くんがカップルでないとバラしてしまった。つまり、私と桐椰くんがしたお互いの好きなところアピールは、純粋に私と桐椰くんそれぞれの良いところを紹介しただけになる。魅力的な異性に恋人なんて障害がないのだと、蝶乃さんが暴露してしまったということだ。そして、BCCなんてものは、出場している組が楽しむためだけにあるもので、一般生徒はその余興を愉しみたいだけ。つまり、生徒会より御三家が好きなら私と桐椰くんのペアに投票するだけだ。恋人でない私達に投票したところで、私と桐椰くんという組み合わせを認めることになるわけじゃないんだから。
「優勝は――えぇと、ペアと言っていいんでしょうか……いえいいですね、出場したんですから! 改めまして、優勝は、総計三五二〇〇ポイントを獲得した、御三家の桐椰桜坂ペア!」
なんて馬鹿馬鹿しい、茶番。金に物を言わせた権力で散々横暴に振る舞ってきた生徒会のトップが考えるには、あまりに馬鹿げてる。
このBCCの目的は、本当は何だったのだろう――。
笑いの渦のような観客の称賛を遠くに聞きながら、目蓋を下ろした。
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