第一幕、御三家の桜姫

(四)真実に花を



 目を開けると、見慣れない天井が映った。私の部屋じゃない……。のろのろと起き上がると、ずるっと布団が滑り落ちた。見下ろした自分の恰好はドレスじゃなく、適当なティシャツと半パンで、一瞬思考が追い付かない。


「えーと……」

「養護教諭が着替えさせた」

「わっ?」


 急に聞こえた声に驚いてきょろきょろすれば、ソファに座っている月影くんがこちらを見ていた。隣には桐椰くんの金髪が見える。次いで、目の前にはお水の入ったペットボトルが差し出される。その手の主は松隆くんだ。


「具合はどう?」

「んー……まぁまぁぼちぼち」


 ご丁寧にキャップを開けた状態で改めて手渡された。常温よりちょっと冷たいお水は喉に心地が良い。その間に周囲を見回して、第六西だと気付く。


「……いま、何時?」

「七時半。後夜祭の時間だよ」


 ここは離れてるから音が聞こえないね、なんて言いながら松隆くんはカーテンを開けた。遠くで僅かに光が漏れている。


「……BCCは」

「優勝だよ」松隆くんは一安心したような声で「もちろん根回しが利いたっていうのもあるし、遼単体への票と思しきものも多かったけど、何より将来の夢のコメントは外部客からのウケがかなりよかった。上出来だ、正直、想像以上だった」


 記憶はかなりあやふやだ。そもそも私達は最初から勝ってたのか、逆転したのかも覚えてない。将来が云々(うんぬん)というコメントは何のことだかさっぱりだ。


「それなら……その、私も良かったんだけど。肝心の透冶くんの話は……」

「後夜祭が終わった後にと言われててね。ちょうど今から生徒会室に行くところだった。鍵は閉めておくから、ここで寝てていい」


 まるで私が来ないことは前提であるかのような口ぶりに慌てて口を開いたけれど「聞きたい話ではないだろう? 君の幼馴染ではないのだから」と月影くんがいつも通りに壁を作る。


「……そうだけど」


 それでも私だって聞きたい──そう口にしようとして、それが自分の興味本位からくる感情ではないことに気付いた。

 そっか、私は、いつの間にか──。
< 219 / 240 >

この作品をシェア

pagetop