第一幕、御三家の桜姫
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「俺は別に、お前がいてもいいけど」
不意に、今まで黙っていた桐椰くんが口を開いた。
「一応、お前がいないと聞けなかった話だからな」
こういうとき、最終決定権は松隆くんにある。おそるおそる松隆くんを見上げると「まあ、桜坂が聞きたいなら俺も別に。駿哉は?」「……お前達がいいなら俺は構わん」と許可が出た。
「でも立てる? 顔色悪かったけど」
「んー、寝てだいぶ元気になったし、いざとなれば桐椰くんがお姫様抱っこしてくれることでしょう」
「誰がだ!」
妙にしおらしいなぁと思っていたのだけれど、からかえばいつも通りの怒鳴り声が返ってきた。よしよし、桐椰くんは変わらず元気だ。
ベッドから降りるとき、松隆くんが手を貸してくれた。ただ、その仕草とは裏腹に、表情に優しさはなく、これから透冶くんの死の真相を聞かされることに、どこか緊張しているように感じられた。
「で、そんな恰好だけど、どうする? 制服に着替えるなら、隣の教室が空いてるけど」
「あ、うん、制服のほうがいいかな……」
「じゃ、これ、吉野から餞別」
あれ、そういえば私の制服はよしりんさんに破られてしまったような……なんて考えていると、なぜか新品のシャツが差し出された。なるほど、ちゃんと体に合うサイズの制服を着ろってことね……。
「じゃあ着替えて来るね」
「何かあったら呼んでくれ」
そうして教室を出て行こうとすると、桐椰くんから私のカバンが差し出された。
「控室に置きっぱだったろ」
「あ、そうだった。ありがと」
「別に」
隣の教室は第六西と違って改装はされておらず、ただ綺麗にしてあるだけの普通の教室だった。適当な机の上に鞄と制服を置いて、カーテンが閉まっていることを確認してからシャツを手に取る。よしりんさんが用意してくれた制服は着てみるとばっちりぴったりのサイズで、目算でここまで正確なものを用意するなんて恐ろしい……。
「あ、そうだ。あれなんだったんだろう……」
鞄の中に覗く白い封筒を取り出す。準備室で見つけた、ビニール袋に入った白い封筒。透かしても分からないその中身。簡単に封がしてあるだけなので、ぺりぺりと糊を剥がしてその中身を取り出す。
「宛名、は……」
封筒に宛名はない。代わりに複数枚に渡るその中身は手紙のようで──開いた瞬間、その名前に刮目した。
「総二郎、駿哉、遼、へ……?」
癖のない、綺麗な細い字だった。中身を読んでしまう前に慌てて最後の一枚を見る。ごくんと、喉が鳴った。
「雨柳、透冶……」
まさか、これは、透冶くんの、遺書──……。