第一幕、御三家の桜姫

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 まず、慌てて手紙を伏せた。そうか、生徒会室の二つ隣にあった準備室は元々生徒会室だったのかもしれない。私達が知っている生徒会室は豪奢でいかにも今の金持ち生徒会になってから使われ始めたものだ。となると、透冶くんが敢えてあの教室に手紙を置いたのも納得がいく。鹿島くん達が偽造したものではなさそうだ。字だって……幼馴染だから分かるとは言えないけれど、幼馴染相手にそこを誤魔化す危ない橋を渡るくらいなら、BCCの舞台をわざわざ用意する必要はない。つまり、本物だ。じゃあどうしよう、これを松隆くん達に渡すべきだろうか。書いてある内容によっては読まない方がいいもの? でも内容を確認するなら私が読まなきゃ分からない。私が読んでいいのだろうか。彼方は透冶が死んだ理由なんて知らなくていいって言ったのに?

 どくん、と心臓が不吉な音を立てた。どうしよう──……。

 コン、と音がした。


「着替えたか?」


 慌てて手紙を畳んで封筒の中にしまい込んだ。その封筒も鞄の中に乱暴に突っ込んで、鞄を片手に扉を開ける。立っているのは制服姿でも黒髪の桐椰くんだ。「ど、したの? もう行く?」

「……着替えてる途中で倒れたんじゃねーかと思って」

「そんな間抜けじゃないよ。桐椰くんの腕は大丈夫? 私を持ちすぎて明日はお箸も持てない手になってない?」

「そんなやわじゃねーよ」


 桐椰くんは言葉を選ぶような溜息を吐いた。手紙のことがばれているはずないのに、まさかばれてるんじゃないかとびくびくしてカバンの取っ手を強く握りしめてしまう。


「……透冶の両親に会ったって、言っただろ……」

「あ、うん……」

「……知らなくていいって言われたんだ。透冶が死んだ理由を」


 彼方と同じだ。桐椰くんは額を押さえながら苦しそうに吐き出す。


「少し、年食ってる以外、おばさんもおじさんも変わってなかった。俺のことを全然責めなかった。透冶のことを知らないままなんだろう、知らないままでいい、透冶の分まで学校生活を楽しんでくれって……それだけだ。信じられねぇよ、一人息子が死んだんだから、もっと俺達に八つ当たりしてもいいだろ……」


 私には、友達が死んだ経験なんてないし、そもそも幼馴染さえいない。幼馴染はどんな存在なのだろう。どこにでもいる兄弟のように仲が良く、それでいてどこか他人行儀なところがある、そんな存在なのだろうか。そんな人が死んでから桐椰くん達が抱えたものの正体を、私には一生理解することはできないだろう。だから、今何を言うべきか、私には何も分からない。


「……悪い。つまんねぇ話した。気分悪くなったら言えよ」


 御三家のアジトの扉も開いて、松隆くんと月影くんが出て来た。「行ける?」という確認に頷けば、桐椰くんが先に歩き出した。

 もうすぐ、私と御三家の関係は終わる。

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