第一幕、御三家の桜姫


 生徒会室に行けば、いたのは鹿島くんだけだった。生徒会長の机に腰かけながら「ああ、優勝おめでとう」と儀礼的な称賛を口にする。席に着くように促してくれたけれど、御三家は誰も座ろうとしなかった。


「さて、約束通り、教えてあげるよ。雨柳が自殺した理由」

「自殺なのかどうかまで含めて、俺達は知りたいって言ってる」

「自殺だよ。証人によればね」

「証人?」


 鹿島くんは机の上に置いてあった二冊のファイルを手に取った。A4サイズのファイルで、その表紙に貼ってあるラベルに書いてあるのは、去年を示す和暦と“会計”の二文字。

 ただ、その二冊のファイルは、両方共同じ表紙。まるで複製のように。


「……どういうことだ?」

「両方共、全く同じ時期の生徒会予算の会計帳簿だよ」


 見てみるかい?と、鹿島くんが机の上に置き直す。松隆くんが両方共同時に開き、月影くんがその隣から覗き込み――その目を疑うように机に手をついて注意深く内容に目を走らせ、すぐに、その顔色を変えた。


「分かった?」

「……今年の会計帳簿の収支は、概ね頭に入っている。それと比べれば、こちらの帳簿の違和感なんて明らかだ」


 松隆くんは未だ分からないらしい、眉を顰めているけれど、月影くんは歯軋(はぎし)りするほど苦々しい表情に変わった。


横領(おうりょう)、か」


 私も続いて眉を顰めれば、この場の誰も理解できてないと踏んだのか、月影くんは会計帳簿から目を離さないまま続けた。


「例年のものと比べれば、不必要で不自然な支出項目と金額が多い。生徒会予算でこんなことがされているとしたら、理由は一つだろう……」


 ぎゅ、と机上の拳を、月影くんが強く握りしめる。


「生徒会予算を誰かが私的に遣ったのを誤魔化した痕跡(あと)があるということだ」


 ――それは。


「そうだよ」


 鹿島くんが冷たく言い放つ。


「名前を見るといい。その帳簿をつけていた一人は、当時、会計役員に就いていた雨柳透冶だ」


 月影くんが素早くページを捲り、松隆くんがかじりつくようにそれを覗きこみ、署名欄の名前と──そしておそらく筆跡に、絶句する。

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