第一幕、御三家の桜姫
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「お前がっ……透冶を最初に見つけたのは、透冶が死ぬのを分かってたからか……!」
「…………」
その両手には更に力が籠る。まるでそのまま首を絞めようとでもするように、怒りに任せて、手が震えるほどに強く、幼馴染の胸倉を掴み上げる。松隆くんの爪に引っ掻かれたのか、桐椰くんの首には血が滲んでいた。
「生徒会役員の徽章を見つけたのは偶然なんかじゃなかったってのか。お前は役員が関係してるって分かって証拠を探しに行ったのか」
何も言わない桐椰くんの目には、昏い影が落ちていた。それが余計に松隆くんの怒りを掻き立てたようで、歯軋りした松隆くんは、桐椰くんの胸倉を掴んだまま力任せに壁のほうへ叩きつけた。
ガシャァンッ、と、桐椰くんの背後にあったガラス張りの棚の扉、そしてその中でトロフィーやら盾が崩壊し、耳を劈くようなクラッシュ音が響く。思わず目を瞑り、顔を背け、息を止める。悲鳴を上げたくなるような音と光景だった。なにより――普段仲の良い二人の一方が、ここまで一方的な怒りをむき出しにする光景を、見ていたくなかった。
棚に背中を預けたまま、砕けたガラスの中に沈み込むように座り込んだ桐椰くんに、松隆くんは更に歩み寄る。
「……何とか言えよ、遼」
「総、いい加減にしろ!」
さすがにこれ以上はマズイと感じたのか、月影くんでさえ声を荒げ、二人の間に割って入った。邪魔をするなと睨む松隆くんの両肩に、宥めるように手を乗せる。
「遼が黙っていたことにも非はある。でもだからってこんな――こんな、一方的な責め方をするな。俺達は――」
「じゃあどうしろってんだよ」それでも構わず、吐き捨てるように「とんだ皮肉だろ、透冶が死んでつるむのをやめた俺達は、透冶のことがなきゃこうなれなかったのに、蓋を開けてみればこの有様……結局俺達はお互いになにも分かっちゃいない、形だけの関係だったってわけだ」
つるむのを、やめた……? 妙な表現に目を白黒させるのは私ばかり、月影くんは反論できなさそうに唇を噛んだだけだった。
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