第一幕、御三家の桜姫

 松隆くんの突き放すような目が私を射抜く。


「……桜坂は知らないだろ。俺達は、透冶の死の真相を知ろうとしなけりゃ、また三人で一緒にいることなんてなかったよ」


 なに? どういうこと?

「それは一体……」

「コイツらはね、今でこそ御三家なんて名前で大人しく収まってるけど、雨柳が死んだ後は手をつけられない問題児達だったんだよ」


 鹿島くんが続く話を継ぐ。そんな話、知らない。


「桐椰は暴力、月影は女、松隆は暴力と女。売られた喧嘩も売った喧嘩も、質量ともに教師陣は頭を抱えた。泣かせた女だって彼氏がいようがいまいがお構いなし。学内学外問わず、この三人は、雨柳がいなくなったストレスを三者三様に他人にぶつけまくってたわけさ」


 開いた口が塞がらなかった。信じたくないのに――でたらめだと言ってほしいのに、松隆くんも、桐椰くんも月影くんも、誰一人否定しない。


「当初呼ばれてた“御三家”は今とはずいぶん意味合いが違ったんだよ。男は殴られるのが怖い、女は情に絆された……ついでにいえば、松隆は大財閥の御曹司。ここまで揃えば、誰も口を出せない。そんな状態で君臨してたのが、御三家(・・・)だ」


 “御三家”は高尚な呼び名ではなく、誰も手を出すことができない問題児三人組に対する蔑称(べっしょう)だった……?

「雨柳の死のほとぼりが冷めた……っていうとおかしいな。いくら八つ当たりしたってどうしようもないと気付いて冷静になって(ようや)く――」

「分かったような口きいてんじゃねぇよ、鹿島」


 視線だけで「黙れ」と命令するように、松隆くんの目は鋭さを増す。


「今は俺が遼と話してる」

「……それは失敬」

「遼、答えろ」


 地の底を()うような低い声の主は、再び桐椰くんの胸倉を掴んだ。もう、月影くんは二人の間に立つ気力を失っていた。


「透冶が何に悩んでいるのか知ってたのに、お前は何もしなかったのか。答えろ」

「…………」


 答えない桐椰くんの胸倉を引き寄せ、無理矢理立ち上がらせて。


「……答えろよ」


 脅すように、間近でそう迫る。それでも、桐椰くんはぐっと唇を引き結んだままだ。

 その態度のせいか、松隆くんが目を(すが)める。いけない。今度はその拳が出てもおかしくない。頭の中で鳴った警鐘(けいしょう)に答えるべく、気付けば自然に足が動こうとしていた。

| (.)
< 226 / 240 >

この作品をシェア

pagetop