御三家の桜姫


「……分かった……生徒会室って本校舎の三階だよね?」

「うん。良かったら案内しようかー?」

「そのほうが助かるかも」

「分かったぁ、じゃあ今からでもいい?」

「……大丈夫」


 私が御三家の仲間になれるかは「駿哉」くんにかかってるんだけど……、早くしてくれないかな。内心そんな溜息を吐いた。

 花咲学園の校舎は全部で五つあって、本校舎は一番南にある。本校舎には理事長室、副理事長室、校長室、とお偉い先生方の部屋が揃ってるのがまず基本。それから応接室がいくつかと、会議室や生徒会室がある。生徒会室がそんな本校舎の三階にあることは知ってたけど、役員じゃないから縁がないし、近寄りたくもない。

 本校舎と繋がる二階渡廊下を一緒に歩きながら、稲森さんはそのピンク色の頬に人差し指を当てて見せた。


「でもなんだろうね、蝶乃さんの用事って。前にも梅宮さんが呼び出されたことはあったんだけど」

「え、そうなの?」

「そうだよー。蝶乃さんが誰かを呼び出すなんて珍しいから驚いたんだよね」


 ……そういえば、なんで有希恵は蝶乃さんの仲間 (というか取り巻き? はたまた生徒会役員?)になったんだろう。生徒会役員の仲間になれるかどうかも寄付金次第だとばかり思っていたけれど……有希恵が急に生徒会役員の仲間になれたことを考えればそうとは限らないだろう。


「ねぇ、生徒会役員の……仲間? みたいなのって寄付金少なくてもなれるの? その、有希恵は蝶乃さんに仲間になるように勧誘された、とか」

「あー、そっか。桜坂さんって転校生だから、生徒会の仕組みは知らないんだ」


 頷けば、稲森さんは生徒会役員の仕組みを教えてくれた。

 生徒会役員は、厳密には四種類いる。ヒエラルキーが高いほうから順番に、正役員、指定役員、希望役員、無名役員。

 正役員は生徒会長、副会長など、選挙で指名される役員をさす。どの学校にもいる普通の生徒会役員の役職に就いているのだそうだ。指定役員は、正役員が指定する秘書みたいなもの。仲が良い友達同士や、家同士の付き合いが多いらしい。希望役員はその名の通り希望制。寄付金が多いとなれる。一方、無名役員は、役員とは名ばかりの雑用。その代わり寄付金の多寡(たか)どころか有無も関係ない。

 稲森さんは「多分、梅宮さんは無名役員だよ」と教えてくれた。


「無名役員はねー、正役員以外でも使えるの。自由に選んで自由に捨てていいよって言われてる」

「いいように使っていいって、なんか下僕みたい」

「あー、そうかも。下僕みたいな感じ」

「……え?」

「生徒会室の掃除とか、役員の手伝いとか、まあもっと簡単にいえばパシリとか? そういうことだけかな、無名役員がやってるの」


 稲森さんは無邪気に語るけれど、そんなの、眉を顰めずにはいられない。
< 23 / 108 >

この作品をシェア

pagetop