第一幕、御三家の桜姫
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「御三家って呼び名を広めたのは、透冶だったんだ」
松隆くんの声は、わざとらしい明るさを帯びていた。
「誰が言い始めたんだろうなとは思ってたんだけど……もしかしたら、死ぬ少し前から、そういう、準備をしてたのかな」
それはまるで、死ぬ前の身辺整理のようで。松隆くんの声は、ついさっきは上手く取り繕っていたのに、既に苦しそうに上ずっていた。
「……俺達は、何も分かっていなかったな」
月影くんの声も、いつもより一層抑揚がなくなっていた。透冶くんは「三人で仲良く」の象徴として“御三家”の呼び名を残したのに、現実の“御三家”は問題児集団の代名詞になってしまっていたからだろう。
「……分かるわけ、ないだろ。透冶を措いておくなんて、そんな意味が分かんねーこと、できるわけないのに」
桐椰くんの一言で、沈黙が落ちる。的外れな気遣いだ、そんなことをするくらいなら──死ぬんじゃない。そう思っているのは、痛いほどに伝わってきた。
「……大体、アイツは甘ったれだのなんだのいうけど、本当に悩んだときに、こうやって自分一人で抱え込むんだ。自分で解決するべきだって。俺達に知らせるのは……いつも、終わった後だった」
だから、今回も――。続く言葉を松隆くんが飲み込めば、桐椰くんが隣で舌打ちした。
「俺達に相談してくれたら、先輩連中なんてすぐにぶん殴ってやったのにな」
「その暴力的な手段を透冶が望んだかは別として、少なくとも俺達に相談することを甘えだと感じていたのは確かだな」
月影くんのいつも淡々と抑揚のない声には、少し熱がこもっていた。
「……それの一体、なにが甘えだというのか。本当に、馬鹿馬鹿しい限りだ」
三人から見れば、自分達に一言相談してくれれば済んかもしれない話。それでも、透冶くんにとっては、あまりにもどうしようもないことで、一人で抱えきって死ぬほかなかった話。
三人は、その違いを否定はしない。死ぬようなことじゃなかったと考えて譲らないとしても、幼馴染が死を選んだことを否定はしない。
「……ありがとう、桜坂」
さっきも言ったことを、松隆くんが珍しく繰り返した。
「この一ヶ月半、手伝ってくれて、ありがとう」
きっと、松隆くんは分かっているのだろう。御三家という徒党が、いつしか呪いとなっていたことを。
だからきっと、その言葉は、呪いを解く手伝いをしたことに対する感謝だった。
「……そりゃ、私は御三家の下僕ですから」
でも、それを明言しないのは、きっと松隆くんの――御三家の照れ隠しだろうから。分からないふりをしておいた。