第一幕、御三家の桜姫


「にーちゃん」


 ぱち、と目を開ける。体が横を向いていたせいで、目頭と目尻から涙が滑り落ちた。


「朝飯出来たよ。珍しいね、寝坊」

「……あぁ」


 返事をする。見慣れた天井、見慣れた壁、見慣れた扉。どれもこれも知っている景色と光景で、それでもどこか、水面の下から眺めるように、じんわりと歪んでいるそれに違和感を抱き、手の甲で乱暴に目を擦った。


「……すぐ、起きる」


 パタン、と部屋の扉が閉まった。



 何度も何度も、夢を見る。あの日からずっと。透冶がいなくなってからずっと。夢の中で、夢を夢と認識できず、喋ることのない透冶にただただ手を伸ばして、消えてしまう透冶の前で虚しく立ち尽くす。そんな夢を見て、起きると、泣いている。


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