御三家の桜姫


「それ……なんかおかしくない? 同じ生徒なのに」

「んー、あたしもよく分からないけど、元々、|花学(ウチ)って、生徒会がすっごい強いじゃん? 生徒会の中でヒエラルキーはあるけどー、無名役員は一応“生徒会”の役員ではあるから、その権力の中には入れるんだよね。基本的に下僕でパシリで、ってなっても、一般生徒より上のヒエラルキーなんだよ。それに生徒会役員のパシリだから生徒会に目を付けられたりしないし」

「安全ってこと?」

「そそ。だから虐められてた子がそのまま虐めっ子付の無名役員になったりとか、虐められる前に無名役員になりたがる子もいるかな。あ、ほら、木之下くんは虐められる前にさっさと無名役員になったんだよ」

「木之下くんもなんだ……」

「見てたら分かるじゃん、赤木くんが結構好き勝手パシってるよ。梅宮さんもそうなんじゃない?」


 そっか、有希恵は虐められたくなかったから自分から無名役員になったんだ。木之下くんも生徒会役員にしては妙に腰が低いと思っていたら、そういうわけ。

 ……そんな仕組み、有希恵は教えてくれなかったけどな。思わず表情が曇ってしまう。

 ていうか、この流れで行くと、私が蝶乃さんに呼び出される理由って、無名役員への勧誘なんじゃ……。イヤな予感がしてきた。虐めをやめるから生徒会の下僕になりなさい、ってこと……?

「生徒会室はここねー」


 本校舎三階の東側。生徒会室と書かれたプレートを指差して、稲森さんは立ち止まった。


「じゃああたしはこれでー」

「あ、うん、ありがとう」

「無名役員になったらよろしくね」


 稲森さんは無邪気に手を振ったけど、要は「下僕としてよろしく」だ。冗談じゃない。

 ああでも、私の処遇は私の手になく、蝶乃さんの手の中なのだ。憂鬱(ゆううつ)な気持ちになりながら生徒会室の扉をノックした。


「どうぞ」

「……失礼します」


 甘ったるい蝶乃さんの声に許可されて入れば、中はやっぱり、豪華絢爛。絨毯(じゅうたん)にシャンデリア、ユニットデスクにレザーチェア。更には冷蔵庫にミニキッチンと優雅に過ごせる調度品が(そろ)っていた。御三家のアジトはあろうことか設計ミスで北向きだし、校内の隅の隅だし、室内は“改造”したというのが似合っていたけれど、生徒会室(ここ)は違う。もちろん南向きだし、学校の玄関たる本校舎の中にあるし、最初から生徒会室として作られた場所だ。お金の臭いがする。

 なんていやらしいことを考えていると、ミニキッチンにいる蝶乃さんが「桜坂さんを応接室に通して」と誰かに指示を出した。


「は、はい」


 返事をしたのは、有希恵だ。人選に他意しか感じない。
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