御三家の桜姫


「松隆くんに負けるのはいいんですか!?」

「コイツは仕方ない」

「なぜ!」

「つか駿哉、お前の数学、そんな悪かったのか?」

「九十五点。第二問で計算ミスをした」

「よくやってるよね、そのミス。本当に気を付けなよ、もったいない」


 結局、私が怒られる理由は分からないままなのですが? 分かったのはこの三人の仲の良さくらいだ。じとっと見ていると、気付いた月影くんが「まあいい」と眼鏡のブリッジを押し上げる。


「総、先程の言葉のとおり、俺は反対しない。彼女との取引は好きにしてくれ」


 どうやら、一番の懸念事項──月影くんが私を受け入れてくれるかどうか──はクリアできてるみたいだ、が。


「……月影くん、私のこと、ちょっと気に食わないんだよね? 何で御三家に迎えてくれるの?」

「腹いせに俺達の雑用に付き合わされてるうちに疲弊すればいいと思っているからだな」

陰湿(いんしつ)! 腹いせって言ったよこの人!」

「つか別に数学で負けたからってそんな騒ぐことねーだろ、どうせ総合一位はお前だし」

「それはそうだが」

「そこは自信あるんだ! ヤなヤツだね、月影くん! っていうか、私そんなに頭悪くないし、こう見えて努力家だよ?」

「だからお前のその微妙な図々しさうざいんだよ!」

「さて、晴れて桜坂は俺達の協力者としての肩書を手に入れたわけだけど」


 私達のコントじみた会話を中断させ、松隆くんはニッと笑った。


「じゃあ早速、明日は生徒会室から先月の議事録を()ってきてくれる?」

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