第一幕、御三家の桜姫
最初は、童話の王子様のモデルになれそうなくらい綺麗で優しそうな人だと思った。でも違った。甘いマスクとは裏腹に、その判断には甘さの欠片もない。
「もう一度言うけど、俺達は別に無理強いするつもりはないよ? そこを決めるのは桜坂の自由だし。ただ、正役員の話を断っちゃったってことは、必然的に今まで以上に生徒会の敵に回ると考えたほうがいいよね」
「あ、悪魔! 松隆くんそんな顔して悪魔だ!」
「よく言われるよ」
にっこり。ぞわぞわっと背筋に悪寒が走った。でも、よく考えたら私は桐椰くんに無理矢理連れ出されただけだし、ちゃんと説明したらもう一度指定役員になれるのかも……?
「遼に拉致られたって言えば済むかなって考えてるなら、それは無理かな? ただでさえ蝶乃は桐椰の行動にやたら突っかかるし、応接間に入って蝶乃に喧嘩売って出てきたら、もう御三家に取り込まれたとしか思われないよ」
はっ、と桐椰くんを見たけど、涼しい顔で私を無視。
「俵担ぎで連れ出したのって計算……?」
「俵担ぎしたんだ? 俺はお姫様抱っこって言ったんだけど」
そこじゃない!
「あぁ、計算だよ。もう御三家のもんだって伝えたから、今更指定役員やろうとしたら完全に俺達のスパイにしか思われないだろうな」
「最低! 桐椰くん最低!」
「ちなみにこの作戦考えたのは駿哉だ」
「御三家性格悪すぎ!」
わっと顔を覆ってみせたけど、三人はどこ吹く風と言わんばかりの態度。
「大丈夫、その代わりちゃーんと、契約通りに守ってあげるから」
「あの……でも今後生徒会に狙われるとしたら、御三家に協力してるからってことになりそうなんですけど……」
「まあ盗みに入るときは遼が見張りをやってくれるし」
「無視!?」
「そんなに騒ぎ立てなくても大丈夫だ、桜坂さん」
黙っていた駿哉くんがブリッジに人差し指を当てて眼鏡を押し上げながら言った。
「試験初日、遼と一緒にいるところを目撃されている時点で、君は終わっていた」
どういうこと。