第一幕、御三家の桜姫
「シャツがデカいからよく分かんねーけど、この間のあの感じ、スカートはもともと緩いんだろうし……」
腰に腕を回したまま、指先がくびれをツウとなぞった。ゾクッと背筋に震えが走った瞬間、桐椰くんの腕が「しまった」と言わんばかりに緩む。
「あ、悪ぃ、今のはわざとじゃなくて」
「最っ低! 確かに私は可愛いけどピンチにかこつけてセクハラするなんて!」
「おい馬鹿うるせぇよ! あと可愛いとかかこつけてとかうぜぇわ!」
「桐椰くんが悪いじゃん女の子のくびれ触るなんて──」
「あとで謝るからとりあえず黙れ!」
口を塞がれ「んぐっ」と抗議の声が口内で止まってしまう。それでもめげずに声を上げようとしていると、桐椰くんの手が一層しっかり私の口を塞ぐ。
「おい騒ぐなって言ってんだろ」
「んー! んー!」
「うるせぇな無理矢理黙らすぞ! 今見つかったら俺達停学にこじつけられんだからな!?」
……停学は困るから黙る。桐椰くんは忌々しげに、首を少しずらして、私の腰に回された自分の腕を見た。
「ったく早く出て行けよ……あと十分もしたら生徒会役員会議始まるだろ……」
どうやら時計を見てたらしいけど、なぜか私の腕時計と言ってる時刻が違う。ぷはっ、とその手から口を解放されて、時計を見せた。
「十分? 役員会議は十七時からでしょ? いままだ十六時半だけど……」
「……は?」という間抜けな声が降ってきた。
「何でだよ……何で俺の時計止まってんだよ!」
「ちょっと大きな声出さないで! いいからあと三十分待てば出られるんだから……」
「三十分もお前と密着するなんて冗談じゃねぇ!」
「それは私のセリフなんですけど! そんなこと言うなら離れてよ!」
「おい馬鹿っ──」
──そして、生徒会室に雪崩出て、桐椰くんが蝶乃さんに暴言を吐き、その巻き添えとして蝶乃さんから酷く冷たい視線を受け。桐椰くんに手を引かれて、生徒会室の廊下側の窓から飛び出て、東側階段を駆け下り、裏校舎の入り口まで疾走。もちろん、ブレザーの中に隠してた会議資料 (ロッカーの中でしわくちゃになってる)はしっかり手に持って。
びっくりしたー、と裏校舎入口に寄りかかって一息つく私に、桐椰くんは苦虫を噛み潰す。
「……お前な。追われなかったからよかったものの」
「桐椰くんがセクハラするのが悪い」
「あ……あれは悪かったって言ってんだろ」
「悪かったって思ってない! 私の体重も勝手に五十キロオーバーなんて言うし! あんな公衆の面前で言うなんて名誉|毀損だ!」
「誰もお前の体重なんて興味ねーから忘れてるよ」
「慰謝料として今度アイスを奢ってください」
「安いなお前」