御三家の桜姫


「あー、蝶乃(ちょうの)さん。聞いてくださいよー。なんかコイツが、俺らがわざと肩ぶつけてきたとか言いがかりつけてきて」


 ただ、他の人達にとっては見慣れた光景なのか、動じたのは私だけだったし、なんなら男子二人は困ったような顔で彼女──蝶乃さんに訴えかけた。それを聞いた蝶乃さんは顔をしかめる。


「へーえ、それはそれは。失礼な話ね」

「でも本当のことじゃん! あなた達が有希恵にぶつかってきたから――」


 第三者が出て来たところで公平に判断してもらおうと憤慨した私だったけれど。


「ちょっと、生徒会役員を侮辱する気?」


 本日二度目、他人の言葉に我が耳を疑った。そんな私に、蝶乃さんは高飛車に笑いながら吐き捨てる。


「生徒会役員を侮辱する生徒なんて、この学校に要らない生徒よね」


 そうして私は、生徒会役員を筆頭として、謎の嫌がらせを受ける羽目になった。

 下駄箱を開く。ゴミが入っているので雪崩出る。

 教室に入る。私の机がない。運が良いと廊下にある。

 ロッカーを見る。教科書はない。代わりにゴミ箱の中に全部揃っている。

 体育の授業がある。バスケが始まると身体をボールが強打。頭に当たると十点らしい。

 雨が降る。水溜まりの前で決まって派手に転倒する。

 ちなみに先生は何も言わない。当然、有希恵もだ。今まではいつも私と喋っていたのに、いつの間にか蝶乃さんの取り巻きの一人になっている。

 高校二年生四月、一体全体何が起こっているのか、さっぱり分からない。
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