第一幕、御三家の桜姫
ゴチャゴチャ言ってるうちに入口を開けた桐椰くんと、再びアジト、もとい第六西へ。中には松隆くんが待っていた。
「お疲れ、遼。資料あった?」
「あったあった。コイツのせいでぐっしゃぐしゃだけどな」
「私のせいじゃないでしょ。桐椰くんがセクハラするからでしょ」
「だからしてねぇよ」
「遼は暴力ばっかりで女に飢えてるんだってことで大目に見てあげてよ」
「お前フォローしろよおい。つか飢えてるとかいうな」
桐椰くんがソファに座ると、松隆くんはパソコン前の椅子を引っ張ってきて、サイドテーブルの横に座った。私はソファに座っていいってことかな、とおそるおそる桐椰くんの横に座る。松隆くんは何も言わずに会議資料を開いた。
「先々月と大差ないね。部活紹介の報告、文化祭の計画、試験による部活時間の変更、先月の会計、今月の予算……」
「先月の会計も見ねーとな」
桐椰くんは立ち上がったかと思うと、本棚からドッジファイルを持ってきてドンッとサイドテーブルに置いた。松隆くんが緑色の付箋の場所を開き、手の中にある会議資料と見比べる。
「昨年度決定された部活動予算案のとおりの配分だね。サッカー部は去年予選でいいところまでいったから配分を増やしたって議事録にあったよね」
「ああ、特に異議なしで通ってた。他に予算に動きがあった部活といえば……箏曲部か」
「箏のメンテがいくつか被ったせいで例年より費用が嵩んだって意見書が添付してあったよ。領収書も出てるし、箏のメンテナンス費用の相場からして妥当。筋は通るんじゃない」
私が目を丸くする前で、二人はドッジファイルを捲ったり、会議資料に印をつけたりしている。そこへ「なんだ、もう借りたのか」と白々しい言葉選びとともに月影くんもやってきた。松隆くんと同じように椅子を持ってきて座る。
「会議の進行も例年通りのようだな。会議時間が少し長い点が気になるが、他の月と異なり、議題に新規許可に係る部活の活動報告がある。新規に許可した部活一覧を見れば」まるで頭の中に目次があるかのようにドッジファイルを迷わず開き「一件につき五分程度の報告であったとしても、極端に会議時間が長いとはいえない。したがって意図的に議事録から排除された議題があるとは言えんだろう」
「ところで議事録に書かれてる会議時間は?」
「十八時までとされている。正役員に確認させた結果との誤差は五分、誤差の範囲だ」
……なに? 一体何の話をしているのか分からず、目を白黒させてしまった。