御三家の桜姫


「……幼馴染なの? みんな……」

「あぁ。駿哉は総の父親の主治医の息子。俺と総は兄同士が悪友、ってことで小学一年のときから三人でつるんでる」

透冶(とうじ)は小学四年生のときから一緒だったんだ」


 松隆くんが少し目を伏せて、その名前を呼んだ。


「透冶は、生徒会役員だった。正役員だ。急に生徒会役員を辞めて、虐められ始めて、そして死んだ」


 殺されたとも、自殺したとも言わない。それは、本当は生徒会に殺されたのだと言いたい感情を必死に(おさ)えた結果だった。


「幼馴染の俺達は、透冶の家族も知ってる。だから、透冶が死んだことを知ってる。そして透冶の死後すぐに、透冶のお父さんが地方の支社に転勤したこともね」

「それは……」

「透冶の死に、人為的な関与を感じ始めただろう?」


 ミステリーの謎解きをするかのような口調なのに、その声に面白さを感じている様子は当然ない。代わりに、生徒会に対する猜疑(さいぎ)(しん)がいやというほど伝わってくる。


「もう一つ教えると、透冶の父親が勤めてたのは、鹿島(かしま)グループの企業だ」

「鹿島?」

「生徒会長だよ」呆れ交じりに桐椰くんが教えてくれた。「鹿島|明貴人(あきと)。松隆財閥と並ぶ鹿島財閥の御曹司。透冶がいたときから生徒会長やってんだ」

「そもそも、生徒会役員が任期途中に生徒会を辞めるなど、通例では有り得ない。当然、何か問題が起きたから辞めさせられたと考えるのが合理的だ」

「しかも、生徒会役員を辞めた瞬間に集中砲火──いじめが始まった。昔からそういうことはあったけど……今回は、そのいじめがエスカレートした結果、殺されたと、俺達は思ってるわけだよ」


 ただ、虐め自体が透冶くんを殺したのか、虐めが透冶くんが死ぬ原因となったのか、それは分からないんだ、と。


「そして、これも憶測だと切られてしまえば終わりだからね。俺達は透冶が殺されたって証拠を掴む。そのために、生徒会の粗探しをしてるわけ……もちろん、建前は金持ち生徒会への反抗だけど」

「……でも松隆くん、こんな学校、その気になれば買い取れるって言ったでしょ」

「ああ、あれは半分嘘」なんだと……と驚愕した私に「だってあの時点では、まだ桜坂は俺達と契約結んでなかったでしょ」とさらりと告げる。確かに契約を結んでいない以上、目的を教える理由はない……か? ないのだろうか? なんだか分からなくなってきた。
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