御三家の桜姫



「大体、透冶の件に大人の力を借りようなんて思ってないしね。そんなことをしたら、透冶の事件を握りつぶした学校と同じ穴の(むじな)だ」

「……それは、そうかもだけど」

「あとは……、そんなことをすると、透冶のお父さんに迷惑がかかっちゃうんだろうなと思ってさ」


 その時に見せられた寂しそうな微笑には、口を(つぐ)まざるを得なかった。


「言ったろ? 透冶のお父さんは鹿島グループ企業に勤めてるって。優しい義理堅い人だけど、裏を返せばお人好し、ってね。地方の支社に左遷(させん)されたのに、辞めることもなく」

「……つまり、松隆財閥の権力で鹿島財閥に介入すると、その、透冶くんのお父さんに火の粉が降りかかるってこと?」

「そういうこと。ま、そもそも学校自体は鹿島財閥のものじゃないから、別の財閥も控えてるし。大体、松隆グループは学校経営なんてしてないんだから、花咲学園を買い取ってくださいなんて、そんな子供の我儘(わがまま)が通用するわけないんだけどね」


 松隆財閥がその気になれば買い取れるのは本当、ただしそれをやるだけのメリットが経済的にない。大人の力なんて借りたくないというのが本音だとしても、その理由も合理的なものではあった。


「一番は、透冶のお父さんだけどな」

「そう。だから、俺達はあくまで子供のゲームとして、透冶が死んだ理由を探さないといけない」


 子供のゲーム──まるで遊びのような比喩だけれど、その奥底にあるのは、幼馴染の死。


「ちなみに、透冶は会計役員だった。だから俺達は、会計に何か問題が起きたんじゃないかと踏んでる」


 おそるおそる御三家の様子をうかがえば、三人共、感情を()ぎ落されたような無表情で、それなのに目だけが(いびつ)な生気に満ちていて。その不自然さが、どこか不気味さを(かも)し出していた。


「……そういうわけだから、今後も協力は頼むよ」

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