第一幕、御三家の桜姫
「大体、透冶の件に大人の力を借りようなんて思ってないしね。そんなことをしたら、透冶の事件を握りつぶした学校と同じ穴の貉だ」
「……それは、そうかもだけど」
「あとは……、そんなことをすると、透冶のお父さんに迷惑がかかっちゃうんだろうなと思ってさ」
その時に見せられた寂しそうな微笑には、口を噤まざるを得なかった。
「言ったろ? 透冶のお父さんは鹿島グループ企業に勤めてるって。優しい義理堅い人だけど、裏を返せばお人好し、ってね。地方の支社に左遷されたのに、辞めることもなく」
「……つまり、松隆財閥の権力で鹿島財閥に介入すると、その、透冶くんのお父さんに火の粉が降りかかるってこと?」
「そういうこと。ま、そもそも学校自体は鹿島財閥のものじゃないから、別の財閥も控えてるし。大体、松隆グループは学校経営なんてしてないんだから、花咲学園を買い取ってくださいなんて、そんな子供の我儘が通用するわけないんだけどね」
松隆財閥がその気になれば買い取れるのは本当、ただしそれをやるだけのメリットが経済的にない。大人の力なんて借りたくないというのが本音だとしても、その理由も合理的なものではあった。
「一番は、透冶のお父さんだけどな」
「そう。だから、俺達はあくまで子供のゲームとして、透冶が死んだ理由を探さないといけない」
子供のゲーム──まるで遊びのような比喩だけれど、その奥底にあるのは、幼馴染の死。
「ちなみに、透冶は会計役員だった。だから俺達は、会計に何か問題が起きたんじゃないかと踏んでる」
おそるおそる御三家の様子をうかがえば、三人共、感情を削ぎ落されたような無表情で、それなのに目だけが歪な生気に満ちていて。その不自然さが、どこか不気味さを醸し出していた。
「……そういうわけだから、今後も協力は頼むよ」