御三家の桜姫

(五)御三家と下僕の値踏み

 御三家の真意を知ってしまったせいか、そしてその真意があまりにも重たかったせいか、次の日の朝は妙に悶々(もんもん)とした気持ちになってしまった。

 桐椰くん達は、生徒会に反抗するために御三家を名乗ってるわけじゃなかった……。生徒会室から会議資料を盗んで来いっていうのも幼馴染が亡くなった理由を探すため。その幼馴染が亡くなったのは去年度の冬休みだから、十二月か一月。そしていま、五月中旬に、私という下僕を手に入れて事件の真相を探ろうと……。

 考えているうちに妙な違和感を覚えたけれど、その違和感の正体は分からなかった。うーん、と首を捻りながら歩いていると「怖くて喋れなくなっちゃったかなー?」と妙な声が路地から聞こえてきた。

 路地だし、カツアゲかな、なんて軽い気持ちで視線を向けると、四人の男子に囲まれた一人の金髪が目に入った。思わず二度見三度見して立ち止まり、おそるおそる、顔だけちょっと路地に覗かせて中を見た。なんと囲まれているのは桐椰くんだ。そして桐椰くんを囲む男子は学ランっぽいので花学の生徒ではない。


「黙ってないでさー、ちょっとだけ小遣い分けてくれって言ってるだけだろ?」


 あっ、ベタなカツアゲだ。こんなところで朝からカツアゲなんてされるなんて、可哀想に……。なんて思ったけど、お坊ちゃまお嬢様なんて絶好のカモだから待ち伏せに丁度いいのかもしれない。そうに違いない。


「だから金なんて持ってねぇ」

「嘘言ってんじゃねぇよ」

「花学の生徒が金持ってないわけないだろー?」

「うるせーな、庶民もいんだよ。とっとと失せろ」


 太々(ふてぶて)しい桐椰くんの態度に顔がひきつってしまった。態度のでかさがカツアゲされてる人のそれではない。


「ゴチャゴチャ言ってねぇで早く財布出せよ」

「いいから早く退()け。遅刻したくねぇし服汚したくねぇし」


 服……。そうだね、今日も桐椰くんはジャケット代わりにパーカーなんだね。ちなみに、今日は黒いパーカーを着てる。多分グレーと藍色と黒でローテしてるんだろう。


「……そこで何をしている?」

「ぎゃっ」


 驚いて振り向くと、不審げに眉を顰める月影くんがいた。
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