御三家の桜姫
「何してんだ、お前ら」
「カツアゲ現場をたまたま目撃しちゃって」
「あっそ。折角早起きしたのに結局いつも通りの時間かよ……」
スマホで時間を確認した桐椰くんはさっさと学校へ足を向ける。私のことは無視だ。
「せっかく見守ってたのに! 一緒に行こうくらい言ってくれてもいいのに!」
「見守ってねぇでさっさと行けよ。追いかけられて困るのはお前だぞ」
月影くんと同じ発想だ。むっと頬を膨らませて拗ねてみせる私をやはり無視し、桐椰くんは軽そうなカバンで「おはよー」あいさつ代わりに月影くんの背中を叩いた。
「お前はもう少し優しい挨拶ができないのか」
「優しいだろ、中身入ってねぇし」
「俺を叩かなくていいからカバンに中身を入れろ」
呆れ声だけれど、私と話しているときのような刺々しさはない。なるほど、あの二人、見た目よりずっと仲良しなんだな……。
そんな仲良しの二人の後ろにくっついて歩いていると、いつかのように周囲からの視線を集めてしまっているのを感じる。さすが御三家、いかに女子に人気があるのか、近くにいるだけで痛いほどわかる。
だからこそ私は非常に気まずい。黙々と、やや俯き加減で歩く私に、振り返った月影くんは不愉快そうに顔をしかめた。
「そんなに嫌そうに歩かないでくれるか。俺達としても気分が悪い」
「そんなこと言われても突き刺さる女子の視線が……」
「総が言っていただろう、守ってやると。だから気にしないでいればいい。いざとなれば守る。コイツか総が」
「月影くんは守ってくれないんですか?」
「俺は頭に自信はあるが力に自信はない」
「お前の自信ってあってもなくても清々しいよな」
「それから、俺としてはその格好もどうにかしてほしいのだが」
「制服に格好も何もないもん」
「ないにも関わらず君の容姿が他の女子生徒より劣って見えるのは君自身に原因があるのか?」
「桐椰くん! この人、私と仲良くしてくれる気配がないです! どうにかしてください!」
口を開けば罵詈雑言しか出てこない。いくら女嫌いって言っても最低だ。仲良くなれる気がしない。