御三家の桜姫
「仕方ねーだろ、コイツ、女子と仲良くできねーし」
「歩み寄る努力をしようよ!」
「せめて見目麗しくなってから出直せ」
「ほらこういうこと言う!」
「実際、そのベージュのカーディガンはさすがにださくね? 毛玉くらいとれよ」
確かに桐椰くんのパーカーには毛玉ひとつなかった。くぅ、と唇を引き結ぶ。
「ずっと使ってるから仕方ないじゃん……毛玉の手入れ面倒くさいし……」
「毛玉取り、売ってんだろ」家庭的な発言に耳を疑ったけれど「大体、ゆるっゆるのカーディガンとシャツなのにボタンだけしっかり閉まってリボンつけてるのに違和感しかない」「うっ……」続くダメ出しで口を挟む余地はない。
「ついでに眼鏡の色が絶妙に制服と合わない」
「なんでそこまで言うの!」
「でも俺には関係ないから別にいい」
「だったら最初から言わないでよ!」
「俺としては、下僕といえどせめて並みの容姿ではあってほしいんだがな」
「失礼な! 並みよりちょっと上ですよ私!」
「自分の顔面偏差値は的確に把握した方がいい」
「言い方ひどくないですか! いくら女嫌いだからって!」
興味がないくせにちゃっかり文句はつけるなんて我儘だ。
「女子全員が嫌いなわけではない。俺は頭の悪い女が嫌いなだけだ。」
「はぁ……」
「君のように馬鹿が全面的に出ている女子には興味がない。したがって君に対して嫌いもなにもない」
「ゼロかマイナスなんですがそれは」
しかもさりげなくディスられた。
「ああ、でもコイツ、見た目ほど馬鹿じゃねーんだよ」
桐椰くん、フォローをするならもっとしっかりお願いします。
「どういう意味でだ」
「自分の顔が人並みだって分かってて、あえて下の下に見えるようにしてんだってさ」
「待って、そんなこと言ってないよ。私の顔は並みよりちょっと上ですし、今だって下の下ってほど酷くないです!」
「で、その理由は?」
憤慨する私を華麗にスルーし、月影くんは私ではなく桐椰くんに尋ねた。当然、桐椰くんは「さあ?」と肩を竦めるだけだ。月影くんは無言で眼鏡を押し上げる。
「……なに?」
「いや。俺は君に興味がないので詮索はしないが、隠し事であればやめたほうがいい」
「……何で?」
「信用に関わるだろう」
びっくりして目を瞬かせた私に、月影くんは相変わらず平淡な瞳を眼鏡の奥から向ける。
「少なくとも、俺は分からない人間を信用しない。こちらが尋ねたことに答えないのは構わないが、信用はしないということだ」
私と御三家の関係に信頼関係などない。メリットがないから裏切らないだろう、その限度で信用はするけれど、それ以上はない。冗談交じりの掛け合いをするのはいいが、仲良くなったと勘違いはするな。
「……ごもっとも、です」
そう、釘を刺された気がした。