第一幕、御三家の桜姫


「……ねぇ、あくまで御三家の目的は透冶くんの事件の真相だよね?」

「あぁ」

「だったら生徒会のやることなすことに反抗しなくてもいいんじゃないの?」

「まぁ、生徒会の連中が気に食わないっていうのはあるし。この学校は腐ってるとも思うし」


 確かに、それはそうだと思う。一般生徒が、生徒会の味方をせざるを得ない、徹底した生徒会至上主義の空気は、今までの私がそうだったけど、きっと、酷く息苦しい。


「文化祭はお前にも一役買ってもらうから、そのつもりで」

「えっ、なにそれ」

「文化祭は生徒会の発表があるから、派手にぶち壊してやる」


 桐椰くんの口角は吊り上る。この数日間、一般生徒に祀り上げられていたせいで、その口元から滲み出る性格の悪さに、一種の頼もしさを感じてしまった。


「つか、お前生物行かねぇの?」

「あ、行かなきゃ。……桐椰くんは行かないの?」

「面倒くせー……」

「駄目だよ授業さぼっちゃ! はい立って!」

「お前が戻って来なかったらサボるつもりだったんだけどな」

「桐椰くんって成績良くないんでしょ?」

「文句あっか」

「だったら授業出なよ」

「授業出たら成績良くなるのか? だったら授業に出て俺より成績悪いヤツらは救いようのない馬鹿だな」

「桐椰くん口だけじゃなくて性格も悪いよ! よくないよ、御三家のそういうところ!」


 なんとか引っ張って特別校舎の生物第一教室に行くと、桐椰くんと一緒に入ったせいでみんなの視線が一気に集まった。相変わらず、私の後ろに御三家を見るかのような視線は気持ち悪い。しかも、生物は三組と一緒だから、三組の生徒からも物珍しそうな目で見られてしまう。

 さらになにが最悪って、席は出席番号順で三人ずつ大きなテーブルで別れているところ、私・大橋さん・桐椰くんがたまたま同じテーブルなのだ。大橋さんの隣に座ると、コソッと耳打ちされた。


「一緒に来たけど、何かあった?」

「たまたま桐椰くんが教室に残ってただけ。何もないよ」


 大橋さんの推しメンは月影くんだった気がするけど、御三家ならいいんだろうな。私だって御三家の顔で黄色い声を上げて騒いでみたいものだ。ぜひみんなに裏の顔を知ってほしい。


「でも御三家が純粋に女子と喋ってるのなんて見ないからー、亜季ちゃんが羨ましい」


 大橋さんはうっとりと呟いたけど、残念ながら、私は下僕です。

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