御三家の桜姫

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「でたらめなんか言うわけないでしょ」

「どうせ、そういうこと言う人に限って何も見てないんですよ」

「何人もの生徒会役員が見たんだけどね?」自分で見ていないのは本当らしく、その人の声の苛立ちが増して「っていうか、今は桜坂さんに話しかけてるんだけど?」

「友達がいちゃもんつけられてんですよ? (かば)うのなんて当たり前じゃないですか」


 その時の舞浜さんの表情に、思わず自分の表情が歪んでしまうのが分かった。

 生徒会役員を睨み付ける目に映ったのは生徒会への敵愾心(てきがいしん)。そして何より──、生徒会に反抗できる自分の立場への優越感。私を手に入れたから、御三家の仲間になったも同然だと。

 “友達なんだから”と、私との関係を告げたその表情が、私と全く関係のないことばかりなんて、なんていう(いびつ)さなんだろう。

 その(いびつ)さは、あまりにも不愉快だった。


「……あんた、私が企画役員だって分かっててそういう態度とってんの?」


 企画役員ということは正役員か。正役員の名前は御三家から聞いている、きっとこの人は笛吹(うすい)さんだ。

 なるほどなるほどと呑気(のんき)に顔を覚えようとする私とは絶妙な温度差で、舞浜さんは勝ち誇ったように、それどころか小馬鹿にした態度で笑い飛ばした。


「分かってますけど? 生徒会役員って、本当にそうやって自分が一番偉いみたいな顔してますよね。そういう先輩こそ、分かってるんですか? 生徒会なんてただの成金集団なんですから、従う理由なんてないですよ」


 まるで、舞浜さんが主役で、私は脇役どころか観客のような立ち位置だ。舞浜さんが笛吹さんに喧嘩を売る姿を、ただ眺めているだけ。

 この舞浜さんを、御三家は助けてくれるのだろうか。……助けてくれなければいいのに。

 笛吹さんは「は?」と露骨に不愉快そうな声を出した。その目は私と舞浜さんを交互に睨み付ける。


「こっちがちょっと多めに見てたら、すぐそうやって調子乗るんだよね。本当、イキッた一般生徒ほどウザいヤツはいないわ」


 途端、私と舞浜さん、そして後ろにいた大橋さんと檜山さんまで合わせて、笛吹さんの取り巻き女子五人に囲まれた。取り囲まれた、なんていうと随分|陳腐(ちんぷ)だけれど、実際図式はその通りだ。さすがの舞浜さん達も、怖がるように少し身構えた。


「桜坂さんなんかさあ、生徒会役員に逆らったらどうなるか分かってんでしょ? 分かっててやってんだから、今更なにされたって文句言えないよね?」


 いや最初から文句しかありませんでしたけど! なんてツッコミを入れる勇気はさすがにない。笛吹さんは「ほら、校舎の中入ってよ」と私達を第三校舎へとせっついた。生徒会役員がリンチしてるなんてよくある光景なのに、誰かに見つかると困るのだろうか。

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