御三家の桜姫


「知ってる、桜坂さん? 犯罪って、バレて初めて犯罪なの」


 もしかしたら、笛吹さんは蝶乃さんよりたちが悪いかもしれない。蝶乃さんが私にしていた嫌がらせは、これに比べたらずっと優しいものだ。


「じゃ、みんなでごゆっくり。あたし達は授業に出ないといけないから」


 そのセリフを最後に突き飛ばされ、床に生物の教科書やらノートやらがバラバラッと散らばった。その背後ではピシャリと扉を閉まる音、カチャンと鍵がかかる音、そしてカコンと棒のようなものを扉に立てかけた音が不気味に響く。きっと、教室内から扉を開けられないようにストッパーを置いたのだろう。


「ねぇ亜季ちゃん……これどういうこと?」


 大橋さんの声が震えている。


「……どういうこともなにもない」


 いくらなんでも、もう何が起こるのか分かってるはずだ。いや、もしかしたら、分かってて目をそらしたいから私に違う答えを求めているのかもしれない。

 でも、どっちでもいいや、そんなこと。心底呆れながら、半ば自棄(やけ)っぱちで笑みを零した。


「ねぇ、話終わった?」


 三人の男子は、気怠そうに机や椅子に座ったまま動いていなかった。その中心人物っぽい、少し見た目の派手な男子が億劫(おっくう)そうな溜息を吐く。


「いつものことだけど、俺らにだって都合はあるんだよね。急にあれしろこれしろって言われても困るっていうか」

「だったら、このまま返してください」

「無理無理、俺らだって証拠送んないと出れないし。んじゃ、そこのポニテのやつ」一人が大橋さんを指差し、檜山さんを示して「そこのロープで、短い髪のヤツ縛って」

「……へ……?」

「腕縛ってくれたら縛り方はどーでもいいよ。あ、足は縛んないで。んで、髪がくるくるしたお前は、よく喋る眼鏡のヤツね」


 舞浜さんは私の担当、と。呆然とした舞浜さん達は「え?」「なに?」しか言わないので、男子三人が「あー、めんどくせえなあ」とぼやきながら私達に近寄る。


「いいから、ほら、これ持って。腕縛ればそれでいいよ、もう」

「え……、と、だから、なんでこんな……?」

「いいからやれって」


 大橋さんは怯えたまま、震える手で檜山さんの腕を手に取る。舞浜さんも、その様子を見ながら私に手を伸ばそうとする。

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