御三家の桜姫

「そもそも、文理教室に連れていかれる前に松隆くんが気付いてた可能性も、あるよね?」


 あの文理教室がある第三校舎は、二年生の教室がある第二校舎と、生徒会室等がある本校舎との間。文理教室にはカーテンが引かれていたから、本校舎からは見えない。廊下側の窓はすりガラスだから、やはり第二校舎からも見えない。

 つまり、松隆くんが私達を目撃できたとしたら、それは、笛吹さんと鉢合わせてしまった場所から文理教室に来るまでの間しかない。その場合、私達が文理教室に閉じ込められる前に止めることだってできたはずだ。

 どう考えても、松隆くんが何かを待っていたとしか思えなかった。

 沈黙が落ちた。じっと見つめる先の松隆くんはいつもの微笑を浮かべたまま、静かに口を開く。


「正解」


 それは、確信していたとおりの答えだった。


「最初に謝っておくよ。襲われる直前まで、廊下で桜坂と相手の遣り取りを聞いてたことはね」


 やっぱり、もっと前から文理教室の前まで来てたんだ。


「俺、七組だからね。教室から、第三校舎の三階廊下が見えるんだよ」


 つまり、松隆くんは、文理教室に向かう私達を見ていた。


「桜坂一人だけならすぐに助けようと思ったけど、取り巻きが見えたからね。特に、遼から、最近桜坂の周りにいるハイエナの話は聞いてたから。ここできちんと掃除をするのもいいかと思って利用させてもらった」


 利用とまでいわれたのに、(なじ)ることも、否定することさえもできなかった。だって、御三家の目的は透冶くんの死の真相であって、私を守ることじゃない。あくまで私はついでだ。

 でも最近の一般生徒は勘違いをしている。御三家は生徒会の敵対勢力で、一般生徒を生徒会から守ってくれるのだと。前者に関しては都合がよくても、後者に関してはあんまり調子に乗られても厄介事が増えるだけで迷惑だ。だから、あくまでも守るのは私だけなのだと示すために、私が襲われる直前までは来なかった。

 ただ、私を守るのはついでとはいえ契約には変わりない。だから、私は襲われてはいない。

 それは、御三家のスタンスを維持しつつ、私との契約を守る、ギリギリのライン。もし私が御三家の立場でも、その見極めは同じになるだろう。だから松隆くんを否定することはできない。

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