御三家の桜姫

| (.)

「黙っててほしいなら黙っておくけど、どうして?」


 幕張が元カレって知られたくない? その質問には首を横に振った。


「できれば|花咲高校(うち)の人に知られたくないから……。もう随分前に終わった話だし」

「随分前……そうだね、幕張匠が消息を絶ってからもう二年くらい経つか」

「……松隆くんは、幕張匠のことを知ってるの?」


 もしかして会ったことがあるのだろうか。おずおずと訊ねると「さあ、知ってるってほどじゃないよ」と肩を竦められた。


「まあ、一応これでも松隆家の次男だしね。噂で耳にすることもあるし、人づてに色々聞くこともあるし」

「計算高い腹黒悪魔ですしね」

「そのとおり、情報は持って損することはないから、気にしてはいるほうなんだ。そういうわけで、いまの話を遼達は知らないけど、バレたくないなら自分で気を付けてね」

「はあい」


 それより、この人の前で、私はどれだけのことを隠し通せるだろう。一緒にいればいるほど、些細(ささい)な言動から(ほころ)びを掴まれて、色んなことが芋づる式にバレてしまいそうだ。気を付けなければ、とゴクリと喉を鳴らしてしまった。


「……ところで、学校で三年生にあんなことして、停学とかにならないの? 大丈夫?」

「さぁ、大丈夫じゃない? 今まではなったことないし」


 今までも三年生に殴る蹴るの暴行を加えていたのだろうか? 怖くて聞くことはできなかった。


「そもそも、金持ってたら手を出されないのは生徒会が証明してるから、俺もまた(しか)りだし」

「嫌なヤツですね、松隆くん」

「俺の家、寄付も何もしてないけどね」


 寄付も何もなくても、背後に財閥が控えてるだけで恐ろしいってことだろうな。


「あれ、でも桐椰くんって停学になってなかったっけ?」

「あれは先生の目の前でやっちゃったから、さすがに看過されなくてね。普段は俺と一緒にいるってことが免罪符になってるんだけど」


 使い方が正しすぎる“免罪符”。本当にお金で買ってる……。
< 67 / 239 >

この作品をシェア

pagetop