御三家の桜姫
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「黙っててほしいなら黙っておくけど、どうして?」
幕張が元カレって知られたくない? その質問には首を横に振った。
「できれば|花咲高校の人に知られたくないから……。もう随分前に終わった話だし」
「随分前……そうだね、幕張匠が消息を絶ってからもう二年くらい経つか」
「……松隆くんは、幕張匠のことを知ってるの?」
もしかして会ったことがあるのだろうか。おずおずと訊ねると「さあ、知ってるってほどじゃないよ」と肩を竦められた。
「まあ、一応これでも松隆家の次男だしね。噂で耳にすることもあるし、人づてに色々聞くこともあるし」
「計算高い腹黒悪魔ですしね」
「そのとおり、情報は持って損することはないから、気にしてはいるほうなんだ。そういうわけで、いまの話を遼達は知らないけど、バレたくないなら自分で気を付けてね」
「はあい」
それより、この人の前で、私はどれだけのことを隠し通せるだろう。一緒にいればいるほど、些細な言動から綻びを掴まれて、色んなことが芋づる式にバレてしまいそうだ。気を付けなければ、とゴクリと喉を鳴らしてしまった。
「……ところで、学校で三年生にあんなことして、停学とかにならないの? 大丈夫?」
「さぁ、大丈夫じゃない? 今まではなったことないし」
今までも三年生に殴る蹴るの暴行を加えていたのだろうか? 怖くて聞くことはできなかった。
「そもそも、金持ってたら手を出されないのは生徒会が証明してるから、俺もまた然りだし」
「嫌なヤツですね、松隆くん」
「俺の家、寄付も何もしてないけどね」
寄付も何もなくても、背後に財閥が控えてるだけで恐ろしいってことだろうな。
「あれ、でも桐椰くんって停学になってなかったっけ?」
「あれは先生の目の前でやっちゃったから、さすがに看過されなくてね。普段は俺と一緒にいるってことが免罪符になってるんだけど」
使い方が正しすぎる“免罪符”。本当にお金で買ってる……。