第一幕、御三家の桜姫
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「“つぼみ”って何?」
「去年の文化祭のテーマだよ。今年のテーマももう決まってるよ、まだ見てなかったけど……」
もう一冊のファイルの中には、資料が一部挟まっているだけ。私が持ってきたに違いない会議資料 (その証拠に、大事にしまわれていたにも関わらずしわくちゃだった)なので、このファイルは今年度用なのだろう。
「今年のテーマは……と……」
松隆くんは頁を捲り――僅かに目を見開き、その口角を吊り上げた。
「……なるほどね。生徒会のヤツらは分かってるんだな」
パンッと手の甲が会議資料を叩く。それを覗き込めば答えが分かるのかとおもったけれど──書かれていたのは、たった四文字。
「……“こいこい”……?」
それは、花札のゲームだ。
「面白いね。ここまであからさまに、堂々と喧嘩を売られるとは思わなかったよ」
「どういうこと? 花札と御三家に一体何の関係が……」
「俺達の名前を思い出しなよ」
「……松隆総二郎、桐椰遼、月影駿哉」
「生徒会正役員の名前は?」
「……鹿島明貴人、蝶乃歌鈴……」
「会計には猪股ってヤツが就いてる。ちなみに猪股の父親は鹿島の父親の部下だけど、それは今はおいておくとして」
何か分からない? その目はオモチャを見つけたように煌めいた。
松隆、桐椰、月影……。そして鹿島、蝶乃、猪股……。
「あ……」
声を上げると同時に、思わず口元を手で覆ってしまった。松隆くんは「そう……」と正解を教えてくれる。
「苗字に花札の絵札が入ってる。俺達は松・桐・月の三光。そして生徒会は、猪鹿蝶。ここまでならただの偶然だけど、御三家と生徒会が敵対している中で、よりによって花札のゲームを文化祭のテーマに据えて、関係がないなんてことはないだろう?」
つまり、生徒会は御三家の存在を意識している。このテーマはその暗喩だ。