御三家の桜姫

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「それどころか、透冶の名字は(あめ)(やなぎ)──俺達と併せれば“雨四光(あめしこう)”だ。このテーマを設定しながら、透冶の件を、そして俺達を意識してないなんてまさか言わないだろう」


 その瞳が(くら)く光った。そんな表情を見るのは二回目で、心臓が鷲掴みにされたような恐怖を、一瞬感じた。


「このテーマが決まったのは四月で、透冶は既にいなかった。つまりテーマの趣旨はこうだ、生徒会と御三家は、それぞれ花札の役に置き換えることができる。そして生徒会側には無名役員がいる、その名の通りカスとしてカウントできそうな連中がね。これを合わせて考えると、『三光に過ぎない御三家よりも、猪鹿蝶のある生徒会が上だ』と暗に言っていると読むことができるわけだ」


 きっとそれは、全校生徒へのメッセージにもなっているのだろう。御三家という反乱分子はいるけれど、所詮生徒会の敵ではない、と――。


「が、このテーマが決まったのは四月。当時とは違って、俺達には桜坂がいる」

「……私?」

「桜坂の苗字にある桜。四光には欠かせない札だ」


 ドクンと心臓が一際(ひときわ)大きく鼓動した。恐怖や驚きではない。感じたのは、奇妙な高揚感だ。


「その名前のとおり、桜坂には俺達の切り札になってもらおう」


 松隆くんは怪しい(たくら)みごとでもするように目を(すが)め、その口角は不気味に吊り上がった。


「いいだろう。ぶっ潰してやる」

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