御三家の桜姫

(二)契約目的を達成するため、時に主人と下僕は共闘する


 笛吹さんに襲われかけた事件 (私は笛吹さん事件と呼んでる)から数日後の放課後、松隆くんのお達しで、私と桐椰くんは生徒会室へ向かっていた。


「へえ、『こいこい』ね。花札になぞらえてくるなんて手が込んでんな」

「ふふ、まあ猪鹿蝶と三光の点数は同じですけど、私がいるだけで勝ってますからね。君達は怖いものなしですよ」

「何を偉そうに言ってんだ。お前一人はゼロ点だぞ」

「そんなこと言ったら御三家だって一人一人はゼロ点のくせに。ばーかばーか!」

「つくづく思ってたけどお前のそのキャラうぜーな」

「酷い!」


 わっ、と顔を手で覆って見せる。拍子にズレた眼鏡をくいっと持ち上げると、桐椰くんが不愉快なものでも見るように眉間に皺を寄せた。


「総に聞いたけど、それ、笛吹の仲間にやられたんだって?」

「そうなのです。か弱い乙女になんて仕打ちでしょうね」

「ったく、笛吹も金持ってるから何も言われねぇんだよなあ。ああ見えて(きも)()わってないし、レイプまではさせてないみたいだけど。えぐいことやるよな」

「桐椰くん、セリフがえぐいです。そして私がか弱いところはスルーですか。……それから、笛吹さんがやってることに気付いてて何も言わないんですか」

「別に」桐椰くんは表情を変えもせず「言ったろ、生徒会を潰すのは建前だって。俺達が知りたいのは透冶に何があったか、だけ。そのために正役員を落としていくことが必要ならやる。でも、今はその要否が分からないから不要な労力を払わないだけ」

「……御三家って冷めてるよね」

「どうだか。……まぁ、透冶がいたら少しは違ったかもな」


 その呟きにはセリフ以上の含意(がんい)があるように聞こえた。いや、今の呟きに限ったことじゃない、桐椰くんはいつもそうだ。透冶くんの話をするときは苦しそうな声になるし、何よりその名前を口にするときに、少し泣きそうな顔をする。

 その表情に、私も少し切なくなるのはどうしてだろう。


「……ねぇ、透冶くんって、どんな人だったの」

「それが一回、透冶に怒られたことあってさ。結構ヤバいことやらかして。アイツが怒ったのは後にも先にもあの時だけだったから、俺達も反省して。実質、俺達の手綱をとってたのはアイツだったのかもな、って後から思った」


 この、性悪御三家の手綱……? 想像にできない人物像に、信じられないと表情に出してしまった。

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