第一幕、御三家の桜姫
(二)契約目的を達成するため、時に主人と下僕は共闘する
笛吹さんに襲われかけた事件 (私は笛吹さん事件と呼んでる)から数日後の放課後、松隆くんのお達しで、私と桐椰くんは生徒会室へ向かっていた。
「へえ、『こいこい』ね。花札になぞらえてくるなんて手が込んでんな」
「ふふ、まあ猪鹿蝶と三光の点数は同じですけど、私がいるだけで勝ってますからね。君達は怖いものなしですよ」
「何を偉そうに言ってんだ。お前一人はゼロ点だぞ」
「そんなこと言ったら御三家だって一人一人はゼロ点のくせに。ばーかばーか!」
「つくづく思ってたけどお前のそのキャラうぜーな」
「酷い!」
わっ、と顔を手で覆って見せる。拍子にズレた眼鏡をくいっと持ち上げると、桐椰くんが不愉快なものでも見るように眉間に皺を寄せた。
「総に聞いたけど、それ、笛吹の仲間にやられたんだって?」
「そうなのです。か弱い乙女になんて仕打ちでしょうね」
「ったく、笛吹も金持ってるから何も言われねぇんだよなあ。ああ見えて胆が据わってないし、レイプまではさせてないみたいだけど。えぐいことやるよな」
「桐椰くん、セリフがえぐいです。そして私がか弱いところはスルーですか。……それから、笛吹さんがやってることに気付いてて何も言わないんですか」
「別に」桐椰くんは表情を変えもせず「言ったろ、生徒会を潰すのは建前だって。俺達が知りたいのは透冶に何があったか、だけ。そのために正役員を落としていくことが必要ならやる。でも、今はその要否が分からないから不要な労力を払わないだけ」
「……御三家って冷めてるよね」
「どうだか。……まぁ、透冶がいたら少しは違ったかもな」
その呟きにはセリフ以上の含意があるように聞こえた。いや、今の呟きに限ったことじゃない、桐椰くんはいつもそうだ。透冶くんの話をするときは苦しそうな声になるし、何よりその名前を口にするときに、少し泣きそうな顔をする。
その表情に、私も少し切なくなるのはどうしてだろう。
「……ねぇ、透冶くんって、どんな人だったの」
「それが一回、透冶に怒られたことあってさ。結構ヤバいことやらかして。アイツが怒ったのは後にも先にもあの時だけだったから、俺達も反省して。実質、俺達の手綱をとってたのはアイツだったのかもな、って後から思った」
この、性悪御三家の手綱……? 想像にできない人物像に、信じられないと表情に出してしまった。
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