第一幕、御三家の桜姫
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「だからこんなに素行悪くても怒られないんだ……」
「おいコラ殴るぞ」
「あ、やめて、予備動作に入らないで」
そのとき、スマホの振動音が聞こえた。私のものではない。桐椰くんがポケットからスマホを取り出し、はぁー、と重い溜息をつく。
「なんで溜息? 私そこそこ頭良いから勝てなくても落ち込むことないよ痛たたたた」
「うぜーなお前は。別にんなことどーでもいいわ。総から連絡来たんだよ、生徒会に呼び出されたって」
「ふぇ? 松隆くんがリンチされるってこと?」
「なんでお前の中で呼び出しはリンチなんだよ。どう考えても文化祭プログラムの話だろ。俺達も来いってさ」
「なるほどー。分かったので放してくれませんか?」
私の頬を引っ張っている手を指して抗議すると、一際乱暴に引っ張られた。
「痛い痛い痛い」
「まー、お前が俺達お抱えの下僕ってことはアイツらも知っての通りだろうし、御三家と下僕が参戦するって伝えるか」
「分かったから放して放して」
「まぁこれ考えたのが誰だかは知らねぇけど、多分考えたのは鹿島で実行すんのは笛吹だなー。企画役員が文化祭担当してるし」
「桐椰くん桐椰くん、私の頬が伸びてしまいます、」
「お前、笛吹に恨まれてそうだから気を付けろよ。ガン飛ばしたりすんなよ」
「いいから放してください!」
「それから、そのうぜぇキャラ隠せよ」
「分かりましたっ」
漸く手を放してくれたけれど、伸びきった頬がじんじんしている。女子相手にすることじゃない。
「じゃ、行くか。丁度クラスの話し合いも終わったみたいだしな」
本当にクラスにノータッチだな……。黒板を一瞥し、桐椰くんは相変わらず軽そうなカバンを掴んで出て行った。しかも「行くか」とか言ったくせに、私を待つ気など毛頭ないと言わんばかり。