御三家の桜姫

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 やれやれ、と私こそ溜息をつきながら立ち上がると──みんなの視線を感じる。とても気まずい。ここで振り返っても、目が合ってしまった誰かが気まずく顔を背けるんだろう……と思うと、無視する気しか起こらない。桐椰くんほど堂々とではないけれど、私も教室を出た。

 途端に、何かから解放されたように、わっと話し出す声が聞こえた。


「やっぱ桐椰くんと桜坂さん仲良すぎじゃない?」

「だから、御三家の姫でしょ?」

「え? 生徒会に虐められたら別に姫じゃなくても守ってくれるだろ? 御三家って生徒会の敵だし……」

「違うってば……だって舞浜さんが襲われたとき、桜坂さんのことしか助けなかったらしいじゃん……」


 さすが笛吹さん事件、結構広まってる、とうんうん首を縦に振る。廊下で地味に私を待ってくれていた桐椰くんが怪訝な顔をするので、人差し指を口に当てて「しーっ」と言ってあげた。わざわざ教室から見えないように、(かが)みこんで窓に映り込むのを避けてる私。桐椰くんは柱の陰に立ってる。

 教室内から聞こえる各自の意見は大体三つだ──今のうちに御三家についたほうがいい、でもやっぱ生徒会のほうが強いだろ、大体生徒会につかないと文化祭もできない。


「舞浜達が襲われたのってあれ? 松隆がキレたんだっけ?」

「そうなの! 私達には見向きもしなかったのに、亜季が殴られたとかで先輩のこと殴ってて……」

「じゃあやっぱ桜坂にしか味方しないってこと?」

「でも舞浜達、別に桜坂と仲良くなかったじゃん、実質は。そこじゃね?」

「傍目ちゃんと仲良くしてたつもりなんだけどなぁ」


 大橋さんの声と、「だよねー」と相槌(あいづち)を打つ檜山さんの声。


「じゃあ梅宮もったいねぇなー。無名役員にならないであのまま桜坂にくっついときゃ今頃御三家の仲間入りだろ」


 その名前に反応した私に、桐椰くんは嘲笑を向けて見せる。
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