第一幕、御三家の桜姫
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「なぁ梅宮?」
「……まぁ。でも、あの時はそんなこと分からなかったし」
「ていうかー、あんまり生徒会の悪口言わないでねー? 一応、私は希望役員だから生徒会側だしー。赤木くんもそうだしー」
間延びした声の主は、稲森さんだ。流石希望役員──正規の生徒会役員とでも言うべきか──教室内の空気を一瞬にして変えて見せた。話題を振られたと感じた赤木くんが「そうだな」と頷くのも聞こえる。
「別にチクッたりしねーけど、指定役員に聞かれてもしらねーぞ、俺は」
ただ、その答えは舌打ち混じりだった。桐椰くんに散々酷いことされてたから、御三家が怖いのかな。
「とりあえず、今まで通りにしておくほうが無難だと私は思うなー」
稲森さんの鶴の声で、クラス内が静かになる。みんな出てくるかも、と慌てて教室の前から移動した。桐椰くんは、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべながら、隣に並んだ私を見下ろした。
「お前、マジで友達いねーな」
「桐椰くんだって松隆くんと月影くんしかいないくせに!」
「いないヤツよりマシだ」
「……ばーかばーか!」
憎まれ口を叩いてから、溜息をつく。こんなはずじゃなかったのに。