第一幕、御三家の桜姫
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放課後の眼鏡店にて、私は弦から縁までショッキングピンクで染まった眼鏡を手に取った。
「あっコレなんかどうっ」
「桜坂、さっきからふざけてる? 絶対似合わないよね?」
これで五つ目だよね、と告げる松隆くんの笑みの裏にある怒りが心なしか深くなってきた。渋々、その眼鏡も元の位置に戻す。
「だって……私は自分に似合いそうな眼鏡を選んでるだけなのに、松隆くんが全部だめだしするから……」
「だから、似合うって思ってないよね? どキツイパープルとかショッキングピンクとか。黄緑もだめ。その色はさっき見たのと同じだろ」
やや茶色がかった橙色の眼鏡を取ろうとして、取る前に怒られた。むっとして見上げると、松隆くんもむっと柳眉を寄せる。
「桜坂、俺、別に虐めてるわけじゃないから。似合わないって言ってるだけだから」
「それが虐め……」
「桜坂、紺色とか似合うのに」
私の細やかな反撃を無視して松隆くんが手に取ったのは、やや明るいネイビー。どちらかというと青色に近い。その眼鏡の両端を持ってスッとかけてくれる。私からは見えないからなんとも言えないけれど、松隆くんは満足げだ。
「それにしなよ」
「えー……」
「何が不満なの?」
笑みで占められた顔のこめかみに今度は青筋が浮かんだ。
「不満というか……不満ですけども……」
「何が? 色が? 形が? それとも俺が選んだのが?」
「い、色です! 断じて松隆くんに文句はありません!」
慌てて答えながら突っ返す。
「嫌いなの?」
「……嫌いというか、ちょっと嫌な思い出があるといいますか」
ごにょごにょと答えると、松隆くんは溜息をつく。
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