第一幕、御三家の桜姫

「じゃあどうする? 他は……、赤色?」


 ワインレッドよりは明るい、けれど赤よりは落ち着いた色の、オーバル型の可愛らしい眼鏡だ。それなら別にいいや、とかけてみると、松隆くんが頷いた。


「はい決定。それにしよう」

「いいの?」

「赤色も似合うから大丈夫」


 普通の女子だったら照れるようなことをサラりと言えちゃうんだなぁ、と感心しながらお財布を探していると、その手を止められた。


「いいよ、弁償するって言ったし」

「でも弁償なら直すだけでよかったのに、」

「似合わない眼鏡を修理してどうするの」


 ここまで爽やかな笑顔で毒を吐ける人を、私は知らない。


「今までの眼鏡で度は合ってるの?」

「うん」

「了解。それじゃ、これ買った後にコンタクトね」


 松隆くんは赤い眼鏡を手に、店員さんのところに行ってしまった。暇になって、手持(てもち)無沙汰(ぶさた)に犬の眼鏡置きの口の中に指を入れて遊ぶ。帰って眼鏡が変わってたら、なんて言われるだろう。無駄遣いって言われるかな。でもちょっとぼかして、学校で壊れちゃったから弁償してもらった、って言ったら、何も言われないかな。それとも気づかれないかな。

 ──あの人は、もし見たら、似合うって言ってくれるかな。コンタクトにしたら、どんな表情(かお)をするかな。| (.)


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