御三家の桜姫

(三)契約遂行のため、主人も恥辱に耐えなければならない

 学校が文化祭ムード一色に染まり始めたせいで、授業時間も文化祭準備に割かれることが多くなった。お陰で、私と桐椰くんはクラスから仲間はずれにされることに。


「だが、これだと票が入んねぇんだよな」

「なるほど、クラスの手伝いをしてポイントを稼ごうと。したたかですね、桐椰くん」

「戦略だ。ただでさえ御三家に味方いねぇのに」


 そう言うが早いが、桐椰くんは立ち上がり、近くにいた赤木くんを捕まえる。


「おい、クラスの出し物って一応クラス全員でやるだろ。仕事くれよ」

「はぁ? お前なんかにやる仕事ねーよ」


 だがしかし、赤木くん、拒否。そして桐椰くんが仕方なさそうに首を回してバキッボキッと音をだす。完全にヤンキーかチンピラだ。現に赤木くんの肩がびくっと震えた。


「な、なんだよ! 話し合いには参加しなかったくせに!」


 クラスの出し物を決めるホームルームのことだ。クラスに無視されているのをいいことに私と桐椰くんが教室の隅っこでコソコソと生徒会室に忍び込む算段を整えていると、いつの間にか提案・投票が行われ、二年四組の出し物は和風喫茶に決まっていた。


「お前らも投票用の名簿回さなかっただろーが。どっちもどっちだろ、仕事寄越せ」

「名簿回さなかったのは俺じゃねーよ、そこの女子だろ」


 赤木くんが責任転嫁しようとばかりに指差した先には、黙々と看板を塗る女子グループがあった。その中の一人が正直にも硬直したので、どうやら犯人は彼女――八橋(やつはし)さんらしい。


「おい、何で回さねーんだよ」


 早速ヤンキー・桐椰くんが絡みはじめ、八橋さんはガタガタと怯えて肩を震わせはじめた。少し俯き加減でもあるせいで、ショートの黒い髪にその表情はきれいに隠れてしまった。

 髪の隙間から遠慮がちな目が一瞬だけこっちを見て、すぐに逸れた。「え……っと……」と蚊の鳴くような小さな声が答える。


「答えろよ」


 あからさまに苛立った声で、チッと桐椰くんが舌打ちした。怖い。八橋さんと一緒にいる女子達も、怖くて庇うことすらできないらしく、困ったように顔を見合わせている。

 桐椰くんが黙って見下ろすこと数十秒、そのプレッシャーに耐えられなかったらしい八橋さんが(ようや)くその小さな唇を開いた。

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