御三家の桜姫


「桜坂さんに……回しちゃ……ダメって……」

「誰が?」

「……その……生徒会の人に……虐められるからって……」

「俺、今何て言った? 誰に回すなって言われたか聞いたんだよ。なんで言うこと聞いたのかなんて誰も言ってねぇだろ」


 あーあ、桐椰くん、そんなに強く言わなくてもいいのに。八橋さん泣きそうだよ。


「ご、めんなさ……」

「謝れとも言ってねぇじゃん。いいから早く言えよ」


 さすがに八橋さんが可哀想。桐椰くんの後ろからその背中をシャーペンで小突いた。桐椰くんの不機嫌な顔が私にまで向けられる。


「桐椰くん、いいじゃん別に。桐椰くん、顔怖いんだからあんまり女子虐めちゃだめだよ」

「虐めてねぇよ。つか、お前も関係あるだろ」

「そんなこと言ったら私も一緒になって虐めてるみたいじゃん!」

「うるせぇ共犯だ」

「酷い!」

「あ、あの……」


 私と桐椰くんが言い争いしてる間に、八橋さんの大きな瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。あーぁ、桐椰くん、泣かせちゃった。


「わ、わたしが……勝手に回さなかっただけだから……」

「はぁ? お前さっきと言ってること違うだろ。誰に言われたんだよ」

「だから桐椰くんそんな言い方しちゃ駄目だってば」

「ご、ごめんなさい……」

「だから謝れって言ってねぇだろ」


 話が進まない。桐椰くんもそう思ったらしくて、わざとらしく深い溜息をついた。

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