第一幕、御三家の桜姫
「でも御三家に潰されちゃうんだったら仕方ないよねー。潰れたらよくあるただの働く生徒会になるのかなー」
「だろうな」
「あたしは別にどうでもいいしー、ていうか松隆くんのファンだからー。桐椰くんと桜坂さんがイイ感じだったら票入れてあげるねー」
前言撤回、稲森さんナイス! これで一票ゲットとガッツポーズしたいけど、できない。桐椰くんの胸板をガンガンガンと拳で叩くと、やっと力が緩まった。ぷは、と顔を上げると、首から鎖骨にかけてのラインがあまりにも綺麗だったので思わず目を逸らした。たまに忘れるけど、桐椰くんってイケメンなんだよね……いい体してるし……。
「っていうかー、いつから付き合ってたのー? 教室の隅でイチャイチャしてるのは知ってたけどー」
「先週から」
多分、生徒会室に呼び出された日のことだな。その設定、覚えておこう。
「そうなんだー、なんて呼んでるの?」
「はっ?」
ふんふん、と一人で頷いていたけれど、さすがにその質問には桐椰くんと一緒になって固まってしまった。呼び方だと……? 頭上から困った気配が漂ってくる。見上げると焦っていた。……もしかして、桐椰くん、私の名前を覚えてないんじゃ。
じっと見つめ続けていると狼狽した目が見下ろしてきた。なるほど、助け船ですか。
「亜季ちゃんって呼ばれてるイッ……!」
ミシッと肩の骨が妙な音を立て、声を上げそうになるのを辛うじて堪えた。ごめん、桐椰くん。ごめんってば。私のことちゃん付けで呼んでる設定にしちゃってごめん。だから力を緩めて。
「えー、ちゃん付けなの? なんか可愛いー」
驚きの連続でみんなの視線は私達に釘付けだ。しかも稲森さんがみんなに聞こえる声で質問してるから、なおさら。
「桜坂さんはー?」
「わ、私は普通にりょ――」
「遼くんって呼ばれてる」
「えー、意外ー。桜坂さんって彼氏に甘えるタイプー?」
「ああそうだな」
桐椰くんの馬鹿! “遼くん”!? “甘えるタイプ”!? 何それ仕返し!? っていうか桐椰くんは私の肩を握りつぶす勢いで掴んだくせに、私は何もできないの理不尽じゃない?
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