御三家の桜姫


「もう俺達の話はいいから仕事寄越せよ。ないなら帰るぞ俺は」

「んー、それは文化祭委員に聞いてくれないとー」

「あ、ああ……えーっと、じゃあ暗幕の予約に行ってくれないか……?」

「行ってくる」


 桐椰くんは、私の肩を抱いたまま (というか掴んだまま)器用に私を引き摺って教室内を横切る。そのついでに文化祭委員の子から紙を一枚受け取って教室を出て――踊り場まで来ると、放り投げるように私を手放した。


「イッタ!」


 ペシャンッと尻餅をついてしまった――けれど、桐椰くんの鬼のような形相を見てしまうと文句を言う余裕はなかった。


「きり……遼くーん?」

「うるせぇ! 何が遼くんだ! 何が亜季ちゃんだ!!」


 恥ずかしいのか怒ってるのか、はたまたその両方なのかよく分からない顔で怒鳴られ、容赦なく胸倉を (女子の胸なのに!)リボンごと掴まれた。


「ちょ、ちょっとタンマ!」

「何でお前とカップルごっこさせられるんだよ!」

「それ私のせいじゃなくない!? 桐椰くんが咄嗟(とっさ)に嘘ついちゃったからじゃん! カップルコンテストに出るのは松隆くんだって言えば良かったのに!」

「だから蝶乃の監視は嫌だって言っただろ!」

「でも蝶乃さんも笛吹さんも、私が誰とも付き合ってないって知ってて参加しろって言ったじゃん! だったらカップルじゃなくても参加資格あるかもしれないじゃん!」

「参加できることじゃなくて優勝することが重要なんだよ! カップルでもない組に投票されるわけねぇだろこの馬鹿!」


 キッとお互い睨みあう、けど、もう後の祭り。ややあって、同時に「はぁ……」と溜息をついた。


「……もういいや。仕方ないから文化祭まで二人三脚の練習しよう」

「カップルだから二人三脚ってなんだそれ。去年どんな感じでやってたのか、パンフレット見ようぜ。多分総が持ってる」


 とりあえず暗幕は貰うか、と桐椰くんは歩き出しながら紙をひらひら振った。横から(のぞ)き込めば、B6くらいの更紙に、クラス・文化祭委員の名前・申請日・企画内容を書くようになっていた。

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