第一幕、御三家の桜姫
「でってちあげてもボロが出るだけだから。お互いきちんと長所なり好きなところなり見つけるようにね。じゃ、俺は今日は予定あるから」
予定があるなら仕方ない、三人で「じゃあな」「また明日」「ばいばーい」と揃って手を振って見送った。
「では、俺も帰るから二人で頑張ってくれ」
「は?」
「え?」
そして、月影くんが松隆くんに便乗して帰りの支度をし始めた。
「仲の良い反応で何よりだ。俺も予定があるから帰る」
「お前に予定はないだろ!」
「受験勉強の予定だ」
「まだ二年の春だぞ」
「馬鹿も休み休み言え、もう初夏だ」
「問題はそこじゃねぇよ」
月影くんの声は抑揚がなく、本気なのか冗談なのか分からない。ただ少なくとも今すぐにでも出ていきたいのは分かるし、現にカバンを肩にかけてしまった。
「いやいや待て待て、お前本気か、本気で俺を残して帰る気か」
「折角蝶乃以来できた彼女なんだから二人の時間は大切にしたほうがいい」
「一度たりとも彼女がいたことないヤツに何でそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ! ぜってーそんなこと思ってねーだろお前! 第一、コイツは期間限定だって言ってんだろ!」
「今付き合ってるという事実は変わりないだろう」
本気なのか冗談なのかやはり分からない。桐椰くんは果敢にツッコミを入れるけれど、月影くんは涼しい顔で悉く受け流す。
「趣味の一致度、把握度、そして長所探し、頑張れ」
「じゃあな」と手を振ることすらせず、月影くんはあっさり第六西を出て行ってしまった。残された私達の間に沈黙が落ちる。
「……遼くん」
「だからくん付けやめろよ。なんだよ」
「何で御三家って仲良しなの?」
「なんでだろうな。俺も不思議だ」
「リーダーの松隆くんは腹黒いし」
「小さい頃から親に連れられてあちこち顔出してるし、その度に色んな種類の人間に会ってるからな、愛想振りまく技を身に着けたんだよ。本当は真正面から腹黒い」
なるほど、愛想のほうが後からついてきたと。
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