御三家の桜姫


「逆に月影くんはいっつも無表情で何考えてるか分かんないし」

「まあ。でもよく見てたらちゃんと変わるからな」


 そんなの、私には百年かかっても無理な芸当だ。


「遼くんは暴力的だし」

「ああそうだな」

「痛い、痛いです遼くん」


 びろーん、と両頬をつまんで引き伸ばされる。それなのにその目は私の顔ではなく、机の上のメモに注がれている。


「んじゃ、とりあえず情報書き出すか。部活あたりからいくとして……帰宅部だよな」

「そうだよ……生徒会に虐められちゃったから……」

「俺も中学から帰宅部だから」

「え、引きこもり?」

「世の帰宅部に謝れよ。野球部にいたけど、他校と喧嘩して辞めさせられたんだよ」


 確かに部活にそんな問題児いたらそうなるよね……。


「何でそんなに問題ばっかり起こしてるの? 反抗期?」

「お前俺のこと馬鹿にしてるだろ」

「気になっただけだよう」

「……別に、気に入らないことなんて世の中いくらでもあるだろ」

「意味深ですね」

「底が見える人間なんてつまんねーだろ。ほら次、スマホの機種は」

「アンドロイド」

「同じくだ」


 シャーペンが動くのと一緒に髪が揺れる。ふわふわ、金色の毛先は差し込んでくる夕日にきらきら照らされていた。


「……遼くんの髪って地毛?」

「は? 染めてるに決まってんだろ。純粋日本人だぞ俺は」

「なんか綺麗だなーって思って」

「じゃあアピールポイントにそう書いとけ」

「遼くんも私の黒髪美髪が好きって言っていいよ」

「癖毛混じりでボサボサじゃねぇか」


 それこそ世の癖毛混じりに謝れと膨れっ面をしてみせたけど、桐椰くんは無視した。

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