第一幕、御三家の桜姫
「逆に月影くんはいっつも無表情で何考えてるか分かんないし」
「まあ。でもよく見てたらちゃんと変わるからな」
そんなの、私には百年かかっても無理な芸当だ。
「遼くんは暴力的だし」
「ああそうだな」
「痛い、痛いです遼くん」
びろーん、と両頬をつまんで引き伸ばされる。それなのにその目は私の顔ではなく、机の上のメモに注がれている。
「んじゃ、とりあえず情報書き出すか。お前が体力測定受けてないから、その点についての情報は聞かれないと想定して覚えない」
確かに、体力測定は文化祭後にある。そして二年から転校してきた私に関して、体力データはないんだ。出題者も正解の知りようがない、と。
「じゃあ出身中学でもいっとくか。俺は朝木《あさき》中学だから。お前は?」
先に手を放してください、と桐椰くんの手を叩いて漸く頬が自由になる。伸びてしまった頬を両手で擦りながら、私の答え待ちというように人差し指と中指の間にシャーペンを挟んだ桐椰くんの手元を見る。
「高祢《たかね》市立高祢中学。あ、転校する前はそのまま高祢高校だったよ。隣の市だから知ってる?」
なんでもなく答えたのだけれど──桐椰くんの手は動かない。胡乱な目を向けると、驚いた目が私を見返していた。
「……え?」
「……お前、幕張匠と同じ中学か?」