ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「…え、なにそれ。」
「言いたいことがありすぎて、原稿用紙に書いてきたんです。」
「…発想が、なんか同じ。」
「え?何か言いました?」
「いえ、何でもないです。」
はい、と当たり前のように400字詰原稿用紙を差し出す彼。
原稿用紙の一枚目には、タイトルと不死原叶純の文字が書かれていた。
『不死原叶純が梨添りいほを大好きなわけ。』
不死原 叶純
そのタイトルは、あまりにもストレートに表現されていて。主語と助詞と助動詞と、
"大好き"の3文字。
「····う、そ。なに、この量。」
「ちなみに原稿用紙、135枚あります。」
「······」
「俺の本気、分かって貰えそうですか?」
135···
135枚···?
ぱらぱらとめくると、ある一文がすぐ目についた。
『恋愛なんてしなくても幸せになれるこの時代に、俺は梨添りいほに恋をした。』
懐メロの歌詞か。
心の中のツッコミですら、自分の声は震えていて。
もう見た瞬間、足の先から温かいものが駆けあがってきて、そこからすぐに心臓にきて、あっという間に目頭が熱くなった。
あんな風にクリスマスイヴを断って、私が突き放した形で別れて、社交辞令ととられるようなメールなんか送って。
極めつけは、あの寒空の下の暴露大会。私が一番みじめなのに、スポットライトの当たらない演出。
あれだけ予防線を張られてきたのに、それでも私を大好きだと言ってくれるの?
「なんか、うまく言葉にできなくてごめんなさい。」
「…ちがう、あやまるのは、ぜんぶわたしの方」
「…さすがに泣かれると、俺も相当動揺しますし。」
「そんな風には、みえないよ」
その証拠に、綺麗な顔が真っ直ぐと私を見つめているし。
でも指はまた何かを弾いてる。かなり速すぎて、何弾いてるのかは分からないけど。
こんな21歳、いやこんな人、きっと不死原君以外にいないだろう。ここまで私と向き合ってくれる人は。
だから私も、今度こそ伝えないと。