ゆれて、ふれて、甘言を弄して
そこから不死原君は、私が泣き止むまで「自己PRをします」と言って、自分の生い立ちや、本当の不死原君という人間性について教えてくれた。
「俺、3人兄弟の3番目だから、すごい適当に育てられたんですよ。」
不死原君は適当に生きているように見えて、芯がしっかりしている。
こんなにしっかり育ったのは、適当に育てた親と、いつも心の支えになってくれたお爺さんのお陰だと教えてくれた。
自分で『しっかり育った』と言い切った時の不死原君は、半笑いでもなく真面目な顔だった。
「特に期待もされないのに何でも器用にできてしまって。で、それなのに14歳の時にコンクールで挑んだ英雄ポロネーズが、途中でフリーズしちゃって。」
「…そう、だったの。」
「たぶん人生で初めての挫折でしたね。だから、音楽から逃げたんですよ、俺。」
「……」
もっと貪欲に、器用に生きているのだと思っていたけれど、本当は不器用な部分もあるのだと知った。
それを『こんな俺でも大丈夫ですか?』と私に尋ねるように教えてくれる不死原君。
『うん。全然大丈夫、むしろ、益々好きになってますよ?』と返すように、頷きながら聞いていた。