ゆれて、ふれて、甘言を弄して
「梨添さん、クリスマス…一緒に、過ごしません?」
「···うん。」
「俺、見た目通りの人間ですけど、大丈夫?」
「うん。」
やだ、突然ミクロ程度のタメ語になるのたまんない。でも意味わかんない。
「見た目通り、よく書店で見かけるティーンズ雑誌の売れ筋ワード『腹黒王子』みたいな感じですけど。」
「···自分で王子って言っちゃうんだ。」
「自分が公言することで周りからも言われるようになります。」
「ほんとだ。腹黒だ。」
「王子を忘れずに。」
「はい。王子。」
丸椅子を、まるでキャスター付かと思わせるようなスライドさばきで私の前までやって来た不死原君。
私の膝の上にある手の甲に、自分の手をのせてきた。
ごめんね不死原君、私末端冷え性だから指先冷たいと思う。
「りいほ、さん。」
「····なんですか、···王子。」
「そこは"叶純"かと思いますが。まあいいか。ところで…クリスマスイヴも、一緒に過ごしたいんですけど。」
「…え」
「さっきの涙の栄養分で俺の下心が芽吹きそうだと言ったら····ドン引きですか?」
「········」
「あ、嘘です。違います。決してやましい気持ちではなくてですね、」
「ふは」
「あ、やっと笑ってくれた。」
分かってるよ腹黒王子、私の身体目当てじゃないことぐらい。
「じゃあ、クリスマスイヴから一緒に過ごしたいって言ったら、叶純《かすみ》君、ドン引く?」
「·······」
「そうだよね。ドン引きだよね。」
「…そうですね。なんだか少し、いえかなり。気持ちが昂りますね。」
どちらの喉が鳴ったのが早いか、不死原君が丸椅子から立ち上がると、私にキスをした。
柔らかい感触が恥ずかしくて、結局また涙が出た。