ゆれて、ふれて、甘言を弄して
不死原君との出会いは、6月に行われた学祭の最中、講堂の舞台袖でのことだった。
臨時で、学祭中の第3講堂の見回りを仰せつかった私。
その時間はちょうどお笑い芸人が外のステージでイキがっていて、ほとんどの生徒はミーハー気取りで出払っていた。
誰もいないのか、と、床に散らばる紙吹雪を静かに拾っている時だった。
ポロネーズ第6番変イ長調
通称『英雄ポロネーズ』が聞こえてきたのは。
跳ねるような指使いと力強いテクニックが必要とされるショパンの曲。
これを弾ける人間は音大生でも限られる程のレベルだ。いや、レベルにプラスしてセンスもないと弾けないだろう。
ちなみにショパンはイケメンだけではなく、音楽の才能で埋め尽くされた、二物を与えられた人間だ。
舞台袖から聞こえてくる、強くも繊細なポロネーズは一体誰が弾いているのか。
自分の足が誘われるように舞台の階段を駆け上がった。
そして二物を与えられた人間は、ショパンだけではないのだと知った。
「···すごい。。」
浅はかな私の呟きに、快く笑顔で返してくれた彼。
「いえ、すごいのは俺じゃなく、このピアノです。」
「·····え?」
「鍵盤が軽いのに、音は重い。ピアノがいいから上手く弾けるんです。」
最初の印象は、とにかく"こなれ感がすごい"だった。
これだけ綺麗な男の子なんだからモテて当然だし、きっとそのこなれた話術で女の子を沢山惑わせてきたのだろう。